2010年8月25日 (水)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

今年の夏は記憶に残るような暑い日々だった。

連日体温を越えるような気温が続く中、子供は毎日部活へと出かけていく。

こんなに暑いのにと心配ではあったが、見守るのが親の仕事だと誰が言っていたのを思い出す。

それでもあまりの日差しに子供の瞳が真っ赤になっているのを見たときは、なんだかほんのちょっぴり心が痛かった。

けれど、そんな想いは子供にとって取り越し苦労に過ぎないようで、急に大人っぽくなっていく子供の顔を見ると逞しくもあり、寂しくもあるのだ。

私の子育ても最終コーナーに差し掛かってきたということなのかな。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

岩崎夏海 ダイヤモンド社

  ★★☆☆☆

病気の親友の願いで、みなみは不本意ながら弱小野球部のマネージャーとなる。そのために手に入れた「マネジメント」は経営学の本だったが、その内容に従って野球部を運営し、甲子園を目指していく。

小説としてはストーリーも結末も目新しいものは何もないが、筆者が「マネジメント」を読んで、感動し、どうしたら人々にその感動を伝えられるかという創意工夫が伝わってくる本。

人によっては難解で退屈なビジネス書が、野球部という例を用いて平易な文章で書かれている。我が家では小学生も読んでこう言った。

「面白かったよ。でもあの難しい文章のかたまりは飛ばしたけどね」

その難しい塊の部分が、ドラッガーのマネジメントの抜粋なんですけれど。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2010年6月11日 (金)

どこから行っても遠い町

つつじの花が美しい季節になった。

空は青く、新緑が目に眩しい。

こんな日は外に出かけると気持ちがいいのになぁと思いつつ、

現実は仕事場の窓から見える小さな四角の空を時折眺めるのが精いっぱいだ。

こどもの顔を見ると、少し日に焼けているのに気づく。

すっかり活動範囲も時間も広がったんだ、当然と思いながら

もう初夏なのだと実感する。

どこから行っても遠い町  川上弘美  新潮社

  ★★★★☆

短編集。どの主人公も同じ町に住んでいて、みんな少しずつすれ違ったりかかわったりして生きている。みんな大事なその街の一部分なのだ。

魚屋、喫茶店、小料理屋。行きかう人たちの毎日。一生懸命生きているはずなのに、人生は時に思い通りには進んでいかない。若い時は努力すれば何でもかなう、手に入れられると信じてきたけれど、人生も折り返しを過ぎてくると、そうはいかないこともあると、否応なしに突き付けられることが往々にしてある。そんな時、ふと人は違う道を選んでしまうのだろうか。

どの話もすっきりした結末になっていないのだけれど、それがこの作品の良さで、すんなり読み進んだことだった。20代の私なら、きっと登場人物たちを理解できなかっただろう。前へ進めない人は意気地なしだと決めつけ、大切な人を傷つけ堕ちていく人間は許せないと。

人生に於ける価値というのは、人によって本当に違うのだ。そして誰もが必死に生きている、他人には決して理解できなかったとしても。それを第三者がとやかく言える権利はどこにもないのだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年5月 9日 (日)

しゃばけ

厚手のコートを着続けたまま、4月が過ぎて行った。

月が変わった途端、さわやかな初夏がやってきた。

彼女の幸せそうな笑顔と、ご家族の嬉しそうなお顔と共に。

五月晴れの空の下、彼女は永遠の愛を誓った。

長く友情を温めてきた友人たちの心からの祝福を受けて。

その輪の中でシャッターを切りながら、今年の天候は彼女の歩いてきた道のようだなと思い至り、しみじみと二人の幸福な前途を祈った。

しゃばけ  畠中恵 新潮文庫

  ★★★★☆

お江戸の廻船問屋、薬種問屋の跡取り息子は生まれつきひ弱で、それは大事にされている。両親だけでなく、妖(あやかし)たちからも守られ、今日も事件を解決し・・・。

シリーズ化されているお江戸ミステリーなのだが、ほのぼの暖かい気持ちになる。

登場人物がまっとうで暖かいのだ。すぐに寝込んでしまう自分を情けなく思いながら真っ当に生きようと努力している若だんなも、どうしようもなく才能のないまんじゅうやの跡取りも、満点とは言えない自分の素質にやけにならず、実直に生きている。本来日本人は、洗練さや要領の良さより、実直で誠実なのが美徳とされてきたのではなかったか。

面倒なことは人に任せて効率よく生きていくのもいいかもしれない。

でも、そればかりだと日々追い立てられ、ギスギスしてしまう。

真面目に、ゆったり生きていくのって悪くない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年4月 7日 (水)

ラブリー・ボーン

卯月になってもコートが手放せない毎日が続いたお陰で、早々に開花してしまった桜の花が舞う中で入学式が迎えられた。

来賓の方々の祝辞が延々と続く中、講堂上部の窓から桜並木が美しく揺れる。

ひどく緊張して講堂を退場していくわが子の心も不安と期待に揺れている。

春が門出の季節なのは本当にいい。

おぼろげな未来への不安やらなにやらがみんな桜色に彩られて、きっと素晴らしいものになる、そう思えるから。

ラブリーボーン  アリス・シーボルト  ヴィレッジブックス

  ★★★☆☆

14歳のある日私は近所の男に殺された。家族と一緒にいたかった。夢もあったし恋もしたかった。そうして毎日天国から家族や大切な人たちを見守る日々が始まった。

1970年代のアメリカを舞台に物語は繰り広げられる。悲惨な事件で家族がバラバラになり、ゆっくりと再生していく。登場人物がそれぞれ丁寧に描かれていて、引き込まれるように読んだ。それぞれが追い詰められて傷ついて現実を受け止められずにいるのだが、母親は家庭から逃げ出してしまう。被害者の少女と年も近く好奇の目にさらされるであろう下の12歳の娘や、まだ幼い4歳の息子までも残して。そして家庭のために自分のキャリアを押し殺してずっと過ごしてきた人生からも。全ての人は選んでいたかもしれない人生、歩んでいたかもしれない道を時々思いながら、折り合いをつけて生きていく。この物語のラストが納得のいくものでよかった。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2010年3月28日 (日)

まほろ駅前多田便利軒

寒い日と暖かい日が交互に繰り返す。

春へと一日一日近付いているのだ。

こういうのを三寒四温というのよと以前、職場の先輩に教わった。

平仮名で書くとさんかんしおん。

「ん」という文字が繰り返されて、そのリズムがなんだか春の訪れに弾む気持を表しているようだ。

桜もつぼみが緩みだしてきた。

さぁ大好きな季節の始まりだ。

まほろ駅前多田便利軒   三浦しをん  文芸春秋

  ★★★☆☆

便利屋の多田は依頼主の家の前で高校の同級生の行天と再会し、図らずも男二人の奇妙な共同生活が始まった。 

物語自体は端的に言うとハプニングの連続でテレビドラマのようなのだが、登場人物たちが時々心に強く残るセリフを言うのだ。

曰く、「望んだように愛されなかったとしても、愛されたいと思った理想の形で誰かを愛することができる、それも生きている間ずっと」

「愛情とは与えるものではなくて、愛したいという気持ちを相手からもらうこと」

本当にその通りだなぁと胸がつまった。おっとと出会い、子供を授かって初めてこんな暖かい想いを経験することが出来た。いつのまにか心から望んでいたものが与えられていたのだ。

まほろ駅前多田便利軒 Book まほろ駅前多田便利軒

著者:三浦 しをん
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年2月 7日 (日)

きみはポラリス

立春近くなって雪が降った。

雪が降る前の空気の独特の匂い。子供の興奮の波。

音もなく降り続くのになぜか感じる雪の気配。

薄暗くなってから降り始めたその雪は、子供の期待に反して次の日には溶けてしまった。

今回は大人の雪だったね、と心の中でつぶやいてみる。

きみはポラリス      三浦しをん 新潮社

  ★★★☆☆

恋愛小説の短編集。この題名の小説は収録されていないし、題名の上にsomething brilliant in my heartと書いてある。作品集のタイトルだけでも強いこだわりが感じられる。おまけに少女趣味のこちらが恥ずかしくなるようなタイトルだ。こういう場合大抵、はずれが多いけれどこの作品集は良かった。

タイトルとは違ってどれも少しずつ色々な意味ではみ出している人の話なのだが、なんとなく腑に落ちてしまう。最初と最後に収録されている話が一つの話なのだが、あっさりさわやかで女流作家ならではの作風がとっても良かった。

きみはポラリス Book きみはポラリス

著者:三浦 しをん
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年12月 8日 (火)

波打ち際の蛍

蛍を初めて見たのは大人になってからだ。

それも自然の中で見たのではなかった。

偶然通りかかった都会の街角に立てられた家庭用の倉庫のような建物の中で。

嫌がる子供たちを説き伏せ、長い行列に並び順番を待った。

クーラーが効き、厚いカーテンで真っ暗にした部屋の中で、それは飛んでいた。

想像よりずっとずっと小さくて儚げで小さな光だった。

ふわりふうわりとゆらめく沢山の蛍の光が、心の隅でじんわり暖かく灯った。

波打ち際の蛍      島本理生   角川書店

  ★★☆☆☆

川本麻由は通院先で出会った植村蛍に好意を持ち始めるのだが、彼女には新しい恋に飛び込めない心の傷があった。

以前の彼にDVを受けたからといって、あまりにじれったい麻由の態度の恐ろしい真相が読み進めていくと少しずつ明らかになる。内容が重くつらいが、この作者ならではのやわらかな雰囲気で物語が展開していく。

DVを受け続けているということも、そもそもそんな男性を見抜けなかったということも、私には信じられないことだが、実際にももっとひどい事件が報道されている。病んでいるのは加害者の方なのか、被害者の方なのか。助けようとする人の手も振りほどき、暴力が増長していく。愛欲それとも執着か。もっと大切なことのために人は生まれてきたと思いたい。

波打ち際の蛍 Book 波打ち際の蛍

著者:島本 理生
販売元:角川グループパブリッシング
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年11月27日 (金)

図書館の神様 

こどもが子供祭りで駄菓子を沢山貰って来た。

どれか食べていいよというので、一番派手なパッケージのものを選ぶことにする。

駄菓子は味を楽しむというより、楽しい気分になれるものがいい。

だからすかさず一番目立つ黒い袋のチョコレート菓子にした。

パッケージには大きな字で、「若い女性に大人気」と書いてあった。

図書館の神様  瀬尾まいこ マガジンハウス

  ★★★★☆

清は国語教師として海辺の中学へ赴任するが、部員がたった一人の文学部の顧問になる。その部員とのチグハグとも思えるやりとりを通して、癒されていく。

派手さはない物語なのに、久しぶりに心地よく物語の中に入っていかれた作品。文学部員の垣内君のキャラクターが抜群だ。心がほんわか温かくなった。普段はもっと刺激的で予想外に展開する話がいいと思うのに、時々むしょうにこんな安心して読み進められる物語を欲するのだ。やっぱり平和で暖かい気持ちになるのっていい。

図書館の神様 Book 図書館の神様

著者:瀬尾 まいこ
販売元:マガジンハウス
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月11日 (土)

喋々喃々

私の住むこの地方はお盆が早い。

提灯や、お供えなどお盆の道具が店に並ぶ。

私が育った家は、幸せいっぱいの家庭ではなかったけれど、母は毎年きちんとお盆を準備した。

仏壇に野菜でつくった馬を並べ、迎え火を焚いてご先祖をお迎えしたものだ。

子供心にもその日は、世間並みのきちんとした家族だという気がして、本当に嬉しかった。

だから母となった今でも、お盆はきちんと行っている。

故郷で母が行っていた八月に。

迎え火を、花火のようにはしゃぐこどもの姿を眺めながら。

喋々喃々      小川糸  ポプラ社

   ★★☆☆☆

谷中でアンティーク着物店を営む栞は顧客の春一郎と恋に落ちて・・。

寺町で和風で粋な暮らしをしたい人のためのガイドブックと思えば、興味深い本だと思う。出てくる小道具や着物の取り合わせ、食事などどれをとっても心をそそられる。

しかし、である。いい年の男女の不倫は、いくら言葉を飾り言い訳を並べても純愛にはなりえず、かえってかまととぶりが文学作品としての質を下げているのではないか。題名の意味も「男女がむつまじく語り合うさま」。青春小説でもあるまいし。

もっとも、この作品の良さはどっちつかずで足踏みしているところなのかもしれない。

喋々喃々 Book 喋々喃々

著者:小川 糸
販売元:ポプラ社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月 4日 (土)

1Q84

オートバイに10代と思しき青年が乗っている。

スピードを急速に上げて、私達の車を抜き去っていったのだが、なぜか妙な違和感がある。

乗り物に対して、青年がやけに小さいのだ。

彼が乗っているバイクはおそらく400ccくらいの中型だから、子供が乗っているのならばともかく、大きすぎることはないだろうと思いながら、小さくなっていくバイクを眺めていてはた、と気づく。

車用の、それもかなり太いタイヤをつけているのだ。

彼の感覚は突き抜けていて、それは奇妙で微妙にずれている。

なんだかいつかどこかでも、こんな感覚を体験したような。

1Q84    村上春樹 講談社

  ★★★★☆

青豆は腕のいいマーシャル・アーツの女性インストラクターだが、他の仕事を持っている。そして、ある依頼を受ける。

一方、天吾は塾の講師をしながら小説を書いているが、ひょんなことから小説のリライトを引き受けることになり、大きく生活が変わっていく。彼女と彼の接点とは・・。

社会現象になるほどの話題が先行して色々と批判も多いけれど、私にとっては、近年の作品の中では一番読み応えがあって、彼の作品で初めて涙した。これまでは独特の作風が好きで、もらさず作品を読み続けてきたけれども、正直に言って感性の部分といおうか、突き詰めれば娯楽の要素が強く、心が揺さぶられたことは一度もなかった。しかしこの作品では、天吾が最終章で父親を理解するくだりには思わず泣けてしまった。通勤電車の中で読んでいたので、かなり気恥ずかしかったけれども。

特別な経験をしなくても、ただ年を重ねるだけで理解できるようになることがあるし、立場が変わっていることに気づくことがある。私も、いつのまにか主人公の天吾ではなく、彼の親の立場からこの作品を読んでいたのだ。

この作品の主題から切り離せないだけに性が多く出てきたけれども、青豆と親友のからみは不必要だし、唐突に感じた。男性筆者が女性の性を描くとどうしてこんなに飢えた感じの女性ばかりになるのだろう、女の性はもっと受身なのではなかろうか。それとも私の思い違い?まさかね。

1Q84 BOOK 1 Book 1Q84 BOOK 1

著者:村上 春樹
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

1Q84 BOOK 2 Book 1Q84 BOOK 2

著者:村上 春樹
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧