波打ち際の蛍
蛍を初めて見たのは大人になってからだ。
それも自然の中で見たのではなかった。
偶然通りかかった都会の街角に立てられた家庭用の倉庫のような建物の中で。
嫌がる子供たちを説き伏せ、長い行列に並び順番を待った。
クーラーが効き、厚いカーテンで真っ暗にした部屋の中で、それは飛んでいた。
想像よりずっとずっと小さくて儚げで小さな光だった。
ふわりふうわりとゆらめく沢山の蛍の光が、心の隅でじんわり暖かく灯った。
波打ち際の蛍 島本理生 角川書店
★★☆☆☆
川本麻由は通院先で出会った植村蛍に好意を持ち始めるのだが、彼女には新しい恋に飛び込めない心の傷があった。
以前の彼にDVを受けたからといって、あまりにじれったい麻由の態度の恐ろしい真相が読み進めていくと少しずつ明らかになる。内容が重くつらいが、この作者ならではのやわらかな雰囲気で物語が展開していく。
DVを受け続けているということも、そもそもそんな男性を見抜けなかったということも、私には信じられないことだが、実際にももっとひどい事件が報道されている。病んでいるのは加害者の方なのか、被害者の方なのか。助けようとする人の手も振りほどき、暴力が増長していく。愛欲それとも執着か。もっと大切なことのために人は生まれてきたと思いたい。
著者:島本 理生
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