2009年9月11日 (金)

告白

文化祭費は払っておいたから気にしなくてもいいよと担任の先生はそっけなくそう言った。

家庭の事情で公立高校の授業料は免除になっていたが、我が家の家計が苦しいことを重々承知だった先生の暖かさが身にしみた。

堂々とアルバイトが出来るようにと特別の許可を学校に取り付け、アルバイト先も訪ねてくださった。

アルバイト先の採用担当者も本当は高校生は採らないんだけどね、と前置きし、僕も同じような身の上なんだよ、と採用してくれた。

友人もみんな暖かかった。

その後のアルバイト先の小さなレストランでも、いつも多めにアルバイト代が入っていた。

不幸だと思っていたあの頃を思い出すと、周りの人々の愛に恵まれたなんという幸せ者だったのだろうと感じ入る。

告白   湊かなえ 双葉社

  ★☆☆☆☆

教師の幼い娘が勤め先の中学で事故死した。しかし、事故ではなく彼女が受け持ったクラスの生徒による殺人だという。真相は、そして彼女の意図とは・・。

エイズ、夜回り先生、家族に毒薬を使用した生徒とどこかで聞いたような境遇の登場人物がテンコ盛りだ。

読み進むうちにやりきれない思いが膨らんでいく。良い人間が一人も出てこないのだ。どこかに光明があるのではと思いながら頁をめくったが、結末も最悪だった。

善人そうに振舞っている人間も全て本性は悪であるという考えのもとに作品が描かれている印象を受けた。たった一人のかけがえのない子供を殺された母親が、復讐を誓う気持ちは痛いほどわかるが、あまりにも救いがないのだ。作者は問題提起をしたかったのかもしれないけれど、後味の悪い読後感が残るばかりだ。なぜこのような作品が本屋大賞なのか理解に苦しむ。売るためなら作品の思想などどうでもいいのだろうか。

世に広く受け入れられている作者はやはり根底に人間愛がある。私は人は愛深く強く素晴らしい存在だと思う。

告白 Book 告白

著者:湊 かなえ
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2009年8月13日 (木)

訪問者

幼かった頃はまだのどかな時代で、お客さんが来ると「外で遊んでいらっしゃい」と言われたものだった。

そんな時はいつもそわそわして、ただ雑草を引き抜いたりして、あまり楽しくなかったことを思い出す。

お客さんが持ってきたお土産が気になってしかたがなかったのだ。

大抵、子供がいるうちだからと高価な洋菓子だった。滅多にケーキなど食べられなかったし、いかにも高級そうな缶の箱に入ったクッキーやビスケットは特別のものだった。

その日はプリンだった。ケーキ屋さんの本物のプリンよと母が言う。

お客さんが帰った後、待ちかねて食べてみると全然美味しくなくて涙が出た。どうしたのかねぇという祖母の声を聞きながら、「苦い」と言えず外に出て、カラメルの部分を外に吐き出した。こころが痛かった。

もっとも今では、苦いプリンを平気で食べるこどもと、美味しいねと一緒に味わうのだけれど。

訪問者  恩田陸  祥伝社

  ★★★☆☆

初老の兄弟が集う湖近くの豪邸に、事故死した映画監督の親友がやってきた。豪邸の持ち主だった女夫人も不慮の死を遂げているようなのだ。不可思議な死の真相は明らかになるのだろうか。

各章がほとんど同じ文章で始まっていて、いつどんな展開になるのかと思える導入だ。豪邸とその周囲だけで物語が進んでいき、そのまま舞台化出来そうだ。事実、この作者は芝居を題材にした小説もいくつか発表していて、そういったことも視野に入れているのかもしれない。

個人的な趣味の相違だとは思うが、「中庭の出来事」以外の芝居テーマの小説がイマイチだったように、この作品も恩田作品としては若干期待はずれだった。とはいっても、充分に面白かったのだが、期待値が高いのでどうしてもそう思ってしまう。

リセシリーズの新作はもう出ないのだろうか。

訪問者  /恩田陸/著 [本] 訪問者 /恩田陸/著 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
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2009年5月10日 (日)

容疑者Xの献身

体調がすこぶる悪いので、夕食は出来合いの弁当で済ませることにする。

こどもが「お弁当おいしかったねぇ」と嬉しそうに言うので、大人気なく答えてみる。

「お母さんのご飯はそんな風にほめてくれないね。」

するとこどもはニッコリ笑って「おかあさんのご飯はもちろんおいしいよ。それに買ったお弁当はかたむいてるし。野菜がないでしょ。」

それはかたよっているというんだよ、という言葉はもったいないから言わなかった。

すぐにそんな言い間違いはしなくなるから。

そうしてありふれた沢山の難しい言葉で、話すようになってしまうから。

容疑者Xの献身 東野圭吾 文藝春秋 ミステリー

  ★★★☆☆

直木賞受賞作。隣人の母娘を守るため、天才数学者の石神がとった行動とは・・・・。

映画化もされ大ヒットした作品。話題になったので当時は敬遠していたけれど、今回図書館で見つけたので読んでみた。ドラマ化するのにぴったりの平凡なストーリーだなと思いながら読み進んでいたものの、やはり東野作品だけにラストのひとひねりが面白かった。でも、Xの動機がやはりいまいちしっくりこない。理が通れば人の道をそんなに簡単に外せるほど、人の命は軽いものなのだろうか。

私の勝手な思い込みかもしれないけれど、この話は作者にとっての全力投球の作品に思えない。『天空の蜂』の方がガリレオシリーズより数倍力作だと思うし、やはり最高傑作は『白夜行』だろう。直木賞はなんだか納得いかない作品が多い。諸事情があるのかもしれないけれど、作品ではなく人に与えるようにしたらいいのに。

容疑者Xの献身 Book 容疑者Xの献身

著者:東野 圭吾
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2009年2月19日 (木)

Q&A

おっとは、ショッピングセンターが好きである。

どれくらい好きかというと、私のことより好きなのではないかと思うくらいである。

新しくオープンしたと聞きつけようものなら、素早く車で馳せ参じ、嬉々として歩き回る。

けれど、一人で行くのは嫌な様子で必ず家族を誘う。

大喜びでお供をしていたこどもも大きくなり無碍に断るので、しかたなく私がお供する。

しかし私がなによりニガテとしているのは、人ごみ、とりわけ行列である。

おっとが年甲斐も無く嬉しそうに頬をゆるめ、行列に並びたがっているのに気がつかない振りをしながら、ショッピングセンターって世の中に幸せをもたらしているのかも、などと考察する。

Q&A             恩田陸   幻冬舎  ミステリー 

  ★★★☆☆

ショッピングモールで多数が死傷する事故が起きた。少しずつ明らかになったことは、予想もしていないことだった。

物語の前半は、タイトルどおり被害者への質問と回答によって進められていく。ありえなくも無い設定と展開に、読了後改めて恐怖を感じた。場の空気のようなものに大衆心理が突き動かされていく様が、淡々と解明されていく。一人一人から、事故とは全く関係なさそうな事実も拾っていくのだが、それも事故の遠因ではと思わされてしまう。

昨年はこのブログにアップする暇もないくらいに、この作者の作品にどっぶりハマリ、ほとんど読破してしまった。好みはあると思うけれど、やはりこの作者が力量を発揮するのは本屋大賞を受賞したもののような作風より、この手の作品だと思う。これほど上手い作家がどうして未だ直木賞をとれずにいるのか、甚だ疑問。

Q&A (幻冬舎文庫) Book Q&A (幻冬舎文庫)

著者:恩田 陸
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2009年1月15日 (木)

最愛

通勤電車はずっと嫌いだった。

その時間が無駄だし、人が多すぎて不快なことこの上ないと。

ところが、随分久しぶりに勤めに出て、また通勤電車に乗るようになったら、非常に楽しいのだ。

吊り広告を眺めるのは面白いし、窓の外の景色もきれい。

ゆったりした気分で予定を確認し、メールをしたり、読書も出来る。

周りの人をこっそり観察するのも興味深い。

そして何より電車に乗ること自体が楽しい、私のためだけの時間を過ごせるということが。

この十年というもの、私の時間は全て誰かのためのものだった。

こんな風にささやかな幸せに感謝することが出来るなんて、人生無駄というものは何もないのだ、とまた気づく。

最愛    真保裕一   新潮社  ミステリー

  ★★☆☆☆

押村のもとに、音信不通だった姉が事件に巻き込まれたと警察から連絡が入った。姉が危険な状態であるにもかかわらず、夫は病院に現れない。押村は真実を知ろうと動き始めた。

主人公の姉に対する思い入れがしっくりこず、それは作者が男性で、私が女だから違和感があるのかと思いながら読み進んだ。強く、自分の生き方に自信を持つ女性と繰り返し主人公に言わせているのだが、境遇を言い訳にして周囲に怒りをぶつける短絡的な女性としか思えないのだ。落しどころにもがっかり。さすがの文章力で読まされてしまうのだが、姉の魅力がさっぱり理解できず、その結果、この作品の魅力が損なわれているような気がしてならない。

もっとも作者はそういう人間の弱さを描きたかったのかもしれない。身を持ち崩さずにはいられない人間、そしてそんな人に惹かれて一緒に落ちてしまう人間の業を。

最愛 Book 最愛

著者:真保 裕一
販売元:新潮社
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2008年11月 9日 (日)

うたう警官

「若いというのは、恥ずかしいということです」

以前読んだ本にそんな一文があった。

当時の私はまだうんと若くて、その言葉を笑い飛ばしたものだった。

しかし月日を重ねて、自分を振り返るような年齢になってくると、その言葉が時折思い出されるのだ。

そして、実感させられてしまう。

未熟なあの頃の私、不遜なあの頃の私、思い上がったあの頃の私。

そんな自分を思い浮かべると心の底から恥ずかしいのだ。

なかったことに出来ればどれほどいいだろう。

すこしは分別がついた今の私なら、もっと上手に振舞えたのに。

けれど、蒼かったあの頃を思い出して、それでも私はこう思う。

「若いというのは、素晴らしいということです」

うたう警官  佐々木譲 角川春樹事務所  ミステリ

  ★★★☆☆

婦人警官が殺害された。次の日には彼女と個人的な付き合いのあった警察官が指名手配され、射殺命令も下された。異常とも思える迅速な展開に、彼を信じ、組織に疑問を持つ人間達の極秘操作が始まった・・。

テンポがよく、一気に読破した。警察内部をテーマにした小説を読むと、フィクションであるとわかっているのに、つい憤ってしまう。学歴が高いというだけで別格扱いされるキャリア組の腐敗。なぜ、現場で地道で辛い捜査を重ねて経験を積んだ人間がトップに登っていかれないのか。実力のある人間が登用されてしかるべきなのに、最初から昇進の道を分けてしまう必要性があるのか。社会の恥部、嫌なこと、苦しいこと、悲しいこと、許せないことばかりを扱い、世の中を守る仕事なのだからこそ、内部の人間に優しい組織であるべきなのにと。

・・・もっとも、私を含め家族友人知人に警察関係者はいないので、腐敗の真偽のほどはわからないのですけれども。

うたう警官 Book うたう警官

著者:佐々木 譲
販売元:角川春樹事務所
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2008年5月20日 (火)

麦の海に沈む果実

そこには立派な薔薇のアーチがあり、大輪の薔薇が咲いている。

沢山の白い薔薇の中に、ちらほらと真紅の薔薇もありそれは見事なものだ。

けれど人がほとんど見当たらない。

いつもは、近所の子供たちや老人達がのんびり過ごしている場所なのに、大輪の華が開くこの季節はなぜか閑散としている。

かくいう私もゆっくり楽しもうとしないのはどうしてだろう。

芳しい香りを漂わせて大振りの花が堂々と咲き誇っている。

重すぎる花のために、か細い枝がひどくしなって、花が不安定に揺れるのもお構いなしに。

そんな様子をしばらく眺めているとなんだか落ち着かないのだ。

気高い薔薇の生命力に圧倒されてしまうのだろうか。

今日も薔薇が美しく咲いている。

麦の海に沈む果実  恩田陸  講談社 小説

  ★★★☆☆

そこは経済的に恵まれながらも、複雑な家庭の子息達が集められた全寮制の中高一貫校。湿原に面した学校へ2月にやってきた理瀬の、亡くしたものを取り返す日々が始まった。

登場人物はみんな謎めいていて、独特の雰囲気に包まれた恩田ワールドで一気に楽しめてしまう。話の筋とは直接関係ないのだが、前回読んだ『黒と茶の幻想』に出てくる人物と同一と思われる少女がいて、そこも楽しめた。他の登場人物も他の作品に登場しているのかしらと、ぜひ他の作品も読まなくてはという気にさせられる。う~ん、売り方がうまい。

でも、面白いから読んでしまうんです、これが。

麦の海に沈む果実 (講談社文庫) Book 麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

著者:恩田 陸
販売元:講談社
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2008年3月24日 (月)

異邦人

異国の人と恋に落ちて妹は旅立った。

その人との子供を授かり、その人の祖国へ向かうために。

会うたびに彼女は、少しずつ異国の匂いをさせていき、その国の人になっていく。

生まれ育った国の政治はわからなくとも、その国の選挙について熱く語り、

自分の国の歴史を姉妹で話し合ったことなどないのに、その国の歴史について教えてくれるのだ。

変わっていく彼女のことがなんとなく寂しいような、ほほえましいような。

けれど、食べ物は日本のものが恋しいらしく、梅干しにお味噌やおせんべいやらおまんじゅうといいながら、目を輝かせる。

そんな彼女の小さな興奮を見て、「うん、芯はまだまだこの国の人なんだなぁ」となぜかほんの少しだけ、安心する。

異邦人   P.コーンウェル 講談社  ミステリ

  ★★★★☆

スカーペッタシリーズ第14作。

イタリア旅行中のアメリカ人女性テニスプレーヤーが惨殺された。その事件は複雑にからむ事件の一端だった。

この作品が楽しめるところは、事件の内容だけでなく、長く続くこのシリーズのおなじみの登場人物たちの関係が時とともに変化していき、それが気になって新作が出るたびに読んでしまう。正直に言って、最近の何作かはあまりいい出来ではなかったように思うのだけれど、この作品は久々の秀作だと思う。

女主人公に20年以上も片思いを続けている元刑事マリーノが、作品を重ねるごとに魅力のない人物になっていくのが残念。私はこういう味のある脇役が大好きなのだ。マリーノをなんとかできないでしょうか、コーンウェルさん。

異邦人 上 (1) (講談社文庫 こ 33-26) Book 異邦人 上 (1) (講談社文庫 こ 33-26)

著者:パトリシア・コーンウェル
販売元:講談社
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異邦人 下 (3) (講談社文庫 こ 33-27) Book 異邦人 下 (3) (講談社文庫 こ 33-27)

著者:パトリシア・コーンウェル
販売元:講談社
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2008年1月19日 (土)

風の墓碑銘

私は、新聞を端から端まで読むのが好きだ。

こんなこと言うと、なんだかインテリぶっていると勘違いされるので人には言わない。

私が特に楽しみに目を通しているのは、広告の部分だ。

テレビのCMと違い、単に商品とその値段を紹介しているだけの単純なものなのだが、こんなもの買う人がいるのだろうか、というような商品が頻繁に広告されている。

私にはありがたいのかどうか全くわからないようなものがえらく高額だったりして、そんな広告を見つけると、どんな人がこういうものを買うのかとあれこれ想像をめぐらす。

記事と記事の隙間にある小さな広告も、さっぱり意味がわからないものがあったりして、もしかしたら、すわ暗号か?重大な何かがやりとりされているのか、などと小さく興奮する。

そういえば、今日の新聞にも面白いものがあったんだっけ。

風の墓碑銘(エピタフ)  乃南アサ  新潮社 ミステリ

  ★★★★☆

音道シリーズ。

東京下町の借家跡から男女と胎児らしき白骨死体が発見された。その後、所有者の老人が隅田川公園で撲殺されるが、彼が入居していた老人ホームのスタッフの青年には前科があった・・。

このシリーズはなんといっても長編がいい。今編も一気に読んでしまい、寝不足になってしまう。事件そのものというより、この音道の男を見る目の無さと言おうか、頑固で融通がきかないところといおうか、そういう人間としての嫌なところが上手く描かれていて、つい感情移入してしまい、ぐいぐい引き込まれていく。でも、私がいつも感情移入してしまうのは、彼女に正当に評価されていない中年刑事の滝沢の方なのだけれど。だって、女のずるさはよくわかってますからん。

風の墓碑銘 Book 風の墓碑銘

著者:乃南 アサ
販売元:新潮社
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2007年12月25日 (火)

所轄刑事・麻生龍太郎

クリスマスの朝、こどもは飛び切り早起きして大喜びしていた。

サンタさんがやってきたからだ。

子供部屋からおもちゃを抱えて「おかあさ~ん、見て、見て!」とやってくる。

文字通り弾ける様な笑顔で。

普段は何度も起こしたあげくようやく目覚めるというのに、今日は普段より一時間も早い。

そんなに早く起きたのに、出かける前におもちゃで遊んでしまい、いつもより慌しく出かけていった。

その後、こどもの部屋を片付けているとシールの裏に書いた手紙がおいてあった。

「さんたさん、来てくれてありがとう」

所轄刑事・麻生龍太郎   柴田よしき  新潮社 ミステリ

★★★☆☆

本当は白バイのりになりたかった。新米刑事の龍太郎はそんな想いを抱きつつも、地味な案件を事件として解決していく才に恵まれている。大学時代からの恋人とは未来は考えられないのに、別れることもできないまま続いている。捨て鉢なわけでない、でも満たされない一人の男がいる・・。

短編集。主人公は恵まれているにもかかわらず現状に満足していない。臆病なのか、欲張りなのか、仕事に対する姿勢も、恋人との関係も受身で全体的にトーンが暗くなりがちな作品だった。それなのに引き込まれてしまうのは、実際の生活でも、理想とは違った現実に折り合いをつけながら、自分を納得させて生きていくのであり、それがシビアに描かれているからなのだろうか。警察小説で主人公が男色というのも、女性作家だからこそという気がして面白かった。

所轄刑事・麻生龍太郎 Book 所轄刑事・麻生龍太郎

著者:柴田 よしき
販売元:新潮社
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2007年11月22日 (木)

ロンググッドバイ

夕暮れ時を過ぎて、低い声の男性が歌うウィスキーのCMソングが流れると、子供の頃、もう大人の時間だと思ったものだ。

CMは、その音楽にのせて風景が映し出されていくものだったと思うのだが、それが郷愁をさそってやたらと心細かったことを思い出す。なんだか自分が独りきりで置いていかれるような、そんな薄ら寒い不安。

時が経ち、氷と沢山の水で薄めたウィスキーを初めて口にしたとき、大人になったことが嬉しかった。

けれども知ってしまった、大人もやはり心細いのだということを。だからほんの少しのぬくもりを求めてお酒を飲むのだということも。

ロング・グッドバイ  レイモンド・チャンドラー 早川書房 ミステリ

  ★★★☆☆

酒に酔いつぶれたレノックスを助けたことがきっかけで、彼と友人となった私立探偵マーロウは事件に巻き込まれていく。大富豪のレノックスの妻は無残にも殺され、その後、レノックスも自殺したのだ。それは終わりではなく、始まりだった。

今風のスピーディーな作品と比べてしまうと、情景がとにかくたっぷり描かれていて、主人公の語り口が回りくどいが、この時代のハイソな空気を楽しむと思えば、マーロウの美学に基づいたキザ振りもいいのかもしれない。軽く酒を交わしただけで厚い友情を交わし、魅力的な女性には惑わされず、金銭にも左右されない。独り強い酒をあおり、理解されなくとも決して自分を曲げない。この時代のタフガイはかなりしんどそうだなぁ。

ロング・グッドバイ Book ロング・グッドバイ

著者:レイモンド・チャンドラー
販売元:早川書房
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2007年11月14日 (水)

反自殺クラブ

柿が美味しい季節がやってきた。

ところが我が家では柿は少し問題なのである。

というのも、私は硬めの若い柿が好きで、りんごより少し軟らかいと思われるものをしゃりしゃりと食べるのが美味しいと思うのだが、おっとは熟した軟らかい柿が好きなのだ。

熟した柿を何度か試してみたのだけれど、熟したものは、同じ味なのに全く違う食べ物のように感じるから不思議だ。歯ごたえというのが、思っているより重要なのだ。

最近では固い柿を買ってきて二、三日置く。すると少し硬く少し軟らかい柿が出来上がる。

完璧に満足はできないけれども、不満にもならないものが誕生する。

些細なことでもこうやって歩み寄るのたいせつなのだ、と私は満足する。いつものようにおっとは気づいていないかもしれないけれど。

反自殺クラブ  石田衣良 文藝春秋 ミステリ 

  ★★★☆☆

池袋ウェストゲートパークⅤ。真島誠は池袋西口の果物屋を母と二人で切り盛りしながら、雑誌のコラムを書いている。彼なりのやり方で、街の、名もない人たちが巻き込まれたトラブルを解決しているのだ。

このシリーズは短編だけれど、その時その時のホットな問題が取り上げられていて、いつもながら考えさせられる。華やかな都会で生じる矛盾や、やりきれない問題を主人公が優しさをもって、合法的に、血を流すことなく解決していくところが読んでいて安心できる。

誠は決して報酬は受けとらず質素な生活を送りながらも、クラシック音楽を聴きながら、自分の美学に忠実に生きている。要領良く、損しないよう立ち回るのが出来る人間だと評価されがちなこの時代に、誠のやせがまんなキザぶりが一昔前の男という感じがして、本当にいい。

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク5 (文春文庫 い 47-9) Book 反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク5 (文春文庫 い 47-9)

著者:石田 衣良
販売元:文藝春秋
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2007年10月31日 (水)

推理小説

ずっと親になるなんて考えられないと思っていた。

おむつなんて汚いし、うるさいし、与えるばかりで自分の生活が犠牲になりそうだと。

それなのに、なんだか気づいたら母親になっていて、そしたら思っていたのとは全然違っていた。

確かにうるさくて、大変で、自由時間なんかない、そんな毎日だ。

けれども、こどもが私にくれたものはそんなこと比較にならないほど大きなものだった。

こどもがあんまり愛らしいので胸の下の方がきゅうとするし、マンガみたいに予想通りの行動をするから涙が出るほど可笑しいのだ。

一番素晴らしいことは、どんなことがあっても心からの愛を捧げてくれる。計算なし、偽りなし、見返りなし。

いついかなる時も小さな手で、そっといたわってくれる。

いつまでこんな幸せに浸っていられるのかなぁ。

推理小説  秦建日子  河出書房新社 ミステリ

  ★★★☆☆

睡眠時間も削り、なりふりかまわず職務を遂行する美人刑事・雪平が担当したのは、「推理小説」という原稿どおりの連続殺人事件だった。

途中までは良く出来ていて、意外な展開に驚かされたりもしたが、後半は結末が読めてしまうのが残念だった。愛情があるのに小さな娘に上手く接することが出来ない母親、と言う主人公の設定だが、描写にリアリティが感じられない。父親か、もしくは努力しても子供に愛情が感じられないというのなら、この作品のようなこともありかもしれないけれど・・・この話はドラマ化されていて、それを見ていないのでなんともいえないが、他の女優さんの顔がうかんだ。どんな出来具合だったのか、気になるところ。

推理小説 (河出文庫) Book 推理小説 (河出文庫)

著者:秦 建日子
販売元:河出書房新社
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2007年7月18日 (水)

震度0

おっとと車でスーパーに出掛けた。

雨なので駐車場が混雑している。

八階だての駐車場なのに満車に近く、空いているところを探してゆっくりと進む。

すると若い女性がどこかを指差しながら私たちに向かって微笑んでいる。

彼女はベビーカーを押していて、その傍らには小さな男の子が立っている。

よく見ると「ここ空いてますよ」と言っているのだ。

おっともそれに気づき、その親切に感謝して駐車した。

彼女にとっては自然でささやかなことかもしれない。

だけど、私はいたく感激してしまった。なんて素敵な人なのだろう、と。

心がじんわりと温かくなった。

彼女が連れていたこどもたちは幸せだ。いつも親切にあふれたお母さんと一緒にいられるのだから。彼らも優しい人になって周囲を暖かくしていくのかな。

震度0   横山秀夫  朝日新聞社  ミステリ

  ★★★★☆

阪神大震災の日、一人のN県警幹部が失踪した。県警の沽券に関わる問題だけに極秘に捜査は進められているが、幹部やその妻達の利害も加わり、激しい駆け引きが繰り広げられる。真相はいかなるものなのか。

隣県で起きている未曾有の大災害への支援や自県の解決すべき事件より、保身を最優先にする人間の弱さが哀しい。これはあくまでフィクションだが、キャリア、準キャリア、ノンキャリアの夫々の立場で、将来を見据えた勢力争いが生々しく描かれていて、うんざりさせられる。希望が見える結末にホッとした。

学業の成績が良いというだけで、辛い現場を知らない若い人間が指揮するのは素人が考えても無理がある。私はお役所のことはわからないし、今は違うと思うのだけれど、以前キャリア上がりの70歳過ぎの社長さんとお話する機会があり、彼は静かにおっしゃった。「私が役所を辞めたのはね、その頃の○○省ではキャリア以外の人間のことをよつあし、と呼んでいたからなんだよ。」

震度0 Book 震度0

著者:横山 秀夫
販売元:朝日新聞社
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2007年6月18日 (月)

月への梯子

うなぎが食べたいとおっとがことあるごとに言う。

その度「そうだねぇ」というものの、うなぎを用意しなかった。

うなぎは高価だし、それなのにこどもが嫌いなので二種類食事の準備をしなければならず、なんだかとっても面倒で損な気がするのだ。

先日おっとと二人街へ出て食事をすることになり、彼がうなぎが食べたいねぇと言っていた事を思い出す。

その時おっとはとんかつが食べたいと言っていたのだけれど、こんなチャンスはないと説得し、偶然通りかかった行列の出来ている鰻屋へ入る。

行列が出来ているほどだから、味も価格も満足がいくものだったけれど、店のつくりがファーストフードのような軽い感じで、ほんの少しおっとががっかりしているのがわかる。

・・・・食事とはただ単に食べるだけにあらず。

月への梯子   樋口有介  文藝春秋  ミステリ

  ★★★★☆

ボクさんは40歳。知能に軽い障害があるけれど親が残したアパートを管理して生活している。幼馴染の京子とその母トキ、そして個性溢れる親切な入居人たちに恵まれて幸せを実感しているが、ある日入居者の蓉子が自室で殺害されているのを発見して・・・。

文体がすっかり気に入ってしまった。特に第一章は心がほんわかするような温かい作風で、気持ちよく読んでいて、死体を発見した下りで初めてミステリと気づいたのだ。これまで読んできたミステリーは、二重三重のどんでん返しや人の内部の描き方に関心することはあっても、なんといおうか文体が好きだなぁということはなかったのだけれど、こんな作家がいたんだと発見。以前は好きな作家の作品を読破していくことが楽しみだったのだけれど、ブログを始めて色んな作家さんを読むようになり、あらためて読書の楽しみが広がった気がする。

月への梯子 Book 月への梯子

著者:樋口 有介
販売元:文藝春秋
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2007年6月11日 (月)

天使と悪魔

雨にぬれそぼる紫陽花が美しい。

大輪のようなのに、小さな花が集まったそのたたずまいもこの季節に相応しくて、つい紫陽花を探して路地裏を歩いてしまう。

挿し木で容易に定着して増えていくから、庭先に植えると娘が縁遠くなるという国もあるのだよ、と聞いたことがある。

それを聞いてから、なんとなく自分で育てるのは敬遠してしまい、他所のお宅で丹精をこめられた花たちを眺めるだけなのだ。

自分が嫁いで随分になるのに、一体どこの国の話かも忘れてしまったのに、だいいち話してくださった方の勘違いかもしれないのに、今でも私にとってあじさいは自ら手にとるのではない眺めているだけの花なのだ。

天使と悪魔  ダン・ブラウン  角川書店 ミステリ

  ★★★★☆

セルン(欧州原子核研究機構)で一人の研究者ヴェトラが殺された。その頃、ヴァチカン市国ではコンクラーベの準備が進められる中、時期教皇候補四人が失踪していた。ラングドンとヴェトラの娘はこれらの謎を解き、事件を解決すべくローマへ向かう。

昨年大ヒットしたラングドンシリーズ第一作。イルミナティという謎の団体や、アンビグラムなどの暗号などが登場し、スピード感溢れる物語の展開は同様で楽しめる。特に下巻は一機読み必死。「ダヴィンチコード」もインチキだと非難されていたけれど、あくまでよく出来た小説だと思って楽しむのがいいと思う。以前はイギリスの推理・スパイ小説が好きだったけれど、この十年くらいは奇想天外で、かつ科学的な面白いアメリカ小説が多い。なんとなく知的な気分にはなるし、気分転換にはもってこい!

天使と悪魔 (上) Book 天使と悪魔 (上)

著者:ダン・ブラウン
販売元:角川書店
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天使と悪魔 (下) Book 天使と悪魔 (下)

著者:ダン・ブラウン
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2007年3月24日 (土)

数学的にありえない

卒業の季節になると、色とりどりの服装の人たちがそれぞれの顔をして行過ぎる。

嬉しさや、一抹の寂しさ、あるいは晴れがましさだったりと。

少し肌寒く冷たい風が残るこの季節だからこそ、門出が似合う。

私もあんな顔をして、あんな風に歩いたのだろうか。

何を心に描いて。

どんな希望を抱いて。

数学的にありえない  アダム・ファウアー  文藝春秋 ミステリ

  ★★★★☆

癲癇で職を失い、ポーカーで破産したケインは借金取りだけでなく、国家安全保障局に追われる羽目になる。CIA工作員のナヴァが彼の前に現れ一緒に行動するが、彼女は敵なのか見方なのか。なぞの科学者の意図するところは何なのか。

謎解きをしながら逃走していく話の筋自体はシンプルだが、それよりも、確率論や量子物理学が非常にわかりやすく書かれてあり、大層興味深かった。謎解きに東洋哲学が出てくるところ、東洋人としてはしっくりくるが、アメリカ人によって書かれているところが面白かった。大学の講義よりずっとわかりやすいので、確率や量子物理学の入り口でにつまづいている人は一読あれ。

数学的にありえない〈上〉 Book

数学的にありえない〈上〉

数学的にありえない〈下〉 Book 数学的にありえない〈下〉

著者:アダム ファウアー
販売元:文藝春秋
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著者:アダム ファウアー
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2007年3月14日 (水)

ラビリンス

先日よくテレビで見る女優さんが、一日署長にやってきた警察署は大通りに面している。

その警察署前の広い歩道を知人と歩いていると、50代くらいの女性が口を大きく開けている。

何かあったのかと思ったら、たぬきがのんびりと女性の横を歩いている。

ここも結構な都会である。

思わず駆け寄ると、たぬきは悠然とした足取りで車道を渡り、潅木が生い茂る中央分離帯へと歩いていく。

どう呼びかけたものかわからなかったので、「あ!」と言ったら、たぬきは妙に艶めかしい腰つきで振り返り、ぐるぐるとした目で私達をちらりと見、潅木の中に消えて言った。

口を開けていた女性がようやく声を出した。

「あれって、たぬきですよね。」

知人が「ええ、よくいますよね。」と答えたので、私は黙って頷いた。

ラビリンス  ケイト・モス   ソフトバンククリエイティブ  ミステリ

  ★★★★☆

20057月、アリスは南仏で遺跡の発掘作業中、洞窟の奥に男女の骸骨と指輪、壁に書かれた迷路を発見する。それを発端にアリスの周りが騒がしくなっていく。

時に12097月十字軍はフランス南部の山の砦を陥落した。過去に導かれるようにして、聖杯伝説が明らかにされていく。

この物語で明かされる聖杯の謎は、それを巡る確執や争いが信徒でなくとも理解できる内容だった。そして人々の弱さや醜さ、恋物語が描かれていて物語として楽しめた。昨年の夏ブームになった聖杯伝説の小説は謎解きとウンチク本のようだったので、女性はきっとこちらの方が楽しめると思う。

ラビリンス 上 Book ラビリンス 上

著者:ケイト・モス
販売元:ソフトバンククリエイティブ
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ラビリンス 下 Book ラビリンス 下

著者:ケイト・モス
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2006年12月11日 (月)

観覧車

今はどうだかわからないけれど、以前、ヨーロッパのその街には移動遊園地がやってきた。

時期になるとやってきて乗り物は組み立てられ、期間が終わるとまたバラバラに解体されて、次の街へ行く。

子供だけでなく大人達もこぞって出かけていく。

時々ネジが緩んだりすることもあるんだよ、などと聞いてしまったものだから、一番安全そうな乗り物を選ぶ。

観覧車だ。

ところが、その観覧車は、日本で「コーヒーカップ」と呼ばれている乗り物が、下から上へ、上から下へとまわっているのだ。もちろん、自分でカップを回すことも出来る。

観覧車のてっぺんはかなり高い。そこで、風を受けながらぐるぐる回るコーヒーカップ。

観覧車は決して安全で退屈な乗り物なんかじゃない。

観覧車  柴田よしき 祥伝社 ミステリ

  ★★★★☆

短編集。下澤唯は、失踪した夫が残した探偵事務所を守っている。哀しい傷を心に抱えた人たちの事件を解決していきながら、夫の失踪の真実に迫っていく。なんの説明もなく自分との生活を捨てた夫との時間を、否定することも、見限ることも、恨むことも出来ない女の悲しさが綴られていて、あっという間に読みきってしまった。だけど、、、この結末はあんまり!早く続編を出してください!同じ作者のRIKOシリーズの緑子は、手当たりしだいに周りの男性と関係を持って行くけれど、この作品の唯は、頑ななまでに一人の男性を思い続けている。そうやって、作者はバランスを取っているのかしら?

観覧車 Book 観覧車

著者:柴田 よしき
販売元:祥伝社
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2006年12月 1日 (金)

子盗り

新聞の投書欄をつい呼んでしまう。

さまざまな年代の人たちが、それぞれの主張を繰り広げている。

数日経つと反論などがまた掲載されたりして、十人十色というのは、本当だなぁなどと一人ごちる。

爽やかで、時に微笑ましく大好きなのは、十代の人たちの投書だ。

感動したこと、将来の希望や、感謝にあふれた良い文章が多く、批判や文句に満ちた大人たちの投書とは明らかに違うのだ。

ずっとそんなきれいな心でいてね、と思いつつ、今日も新聞を閉じる。

子盗り   海月ルイ 文芸春秋 ミステリ

  ★★★☆☆

子供のいない夫婦が子供を手に入れるためにしたことは・・・。手を貸す看護婦、望まない妊娠をした女性、各人の思惑が錯綜する。美津子が不妊に悩み、精神的にも周囲の人たちからも追い詰められていく様子が、実に丁寧に描かれていて圧巻。田舎の旧家では、今でも跡取り問題があるのだろうか。欲に駆られた人たちは、そんなにも残酷になれるのか。それに反して後半はページ数も少ないし、あっけなく解決した印象。少々ほっとしたラストではあったのだけど、どんな悪人でも、ほんのちっぽけでもいいから、良心があると描いて欲しかった。

子盗り Book 子盗り

著者:海月 ルイ
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2006年11月13日 (月)

うつくしい子ども

デパ地下が苦手だ。

あの色々な食べ物の匂いが入り混じった独特の空気やら、多くの店員さんがしている三角巾やらが。

ざわめきや、他の売り場に比べてなんとなく黄色い感じの照明も。

お惣菜やお菓子を買うつもりでエスカレーターを降りて行くのに、ぐるぐるぐるぐると歩き回った挙句、どうしたいのかわからなくなってしまい、結局手ぶらで帰ることになる。

行列の出来る売り場に果敢に出かけて、沢山の袋をぶらさげている人を見ると、いつか私も、と小さな野望を抱く。

うつくしい子ども  石田衣良 文藝春秋 ミステリ

  ★★★★☆

神戸の少年A事件がモデルの小説。事件後、加害者の兄が事件の真相を探っていく。報道や、正義感からくる怒りや、それに便乗した悪意によって加害者の家族も犯人と同等かそれ以上の制裁を受けていく様子が、少年の視点で描かれていく。被害者の気持ちにはほとんど触れられておらず、色々な専門家が当時繰り広げた分析などが必ずしも的を得ていないという立場から書かれていて、作者は勇気があるなぁと感心してしまう。多感な年頃の少年や少女のいい所も悪いところもうまく書かれていて、あくまでフィクションなのだけれど、こういうこともありえるのではと思わせる結末。

うつくしい子ども Book うつくしい子ども

著者:石田 衣良
販売元:文藝春秋
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2006年10月 5日 (木)

ダ・ヴィンチ・コード

随分前のことになるが、初めてパリに旅行した時、パリの街はストライキ真っ盛りだった。

日本人の私はストライキを非常に甘く考えていた。

驚いたことにメトロが動いていなかった。貧乏旅行だったので、テクテク歩いて方々を観光した。

凱旋門や公園などを散策し、気分がよかったので、絵葉書を出そうと郵便局に行ったらストライキだった。

パリにきたらやっぱりルーブルでしょう、とまたひたすら歩いてようやく着いた。

まさかとは思ったがルーブル美術館もストライキだった。

街の人はそれでもおおらかで、怒っている人も困っている人もいない様に見えた。何の問題もないように時が流れていた。

だから、私のそのときの写真もガラスのピラミッドの前で、満面の笑みで写っている。

ダ・ヴィンチ・コード   ダン・ブラウン 角川書店 ミステリ

  ★★★★☆

ルーブル美術館長が館内で殺害された。なぜ彼は殺されなければならなかったのか。現場に残された不可解なメッセージは何を伝えたかったのか。

今年の夏の超話題作。話の筋がシンプルな上、キリスト教徒でないので命をかけた秘密が明かされてもなんとなく腑に落ちず、ミステリとしてはいま一つだった。けれど、シオン修道会やテンプル騎士団、オプス・ディなどに関するうんちくが非常に興味深い。作品中の資料写真や地図などが掲載されているヴィジュアル愛蔵版が絶対お勧め。

ダ・ヴィンチ・コード (上) Book ダ・ヴィンチ・コード (上)

著者:ダン・ブラウン
販売元:角川書店
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2006年9月20日 (水)

音道貴子シリーズ

外にある数字を見るとかたっぱしから語呂合わせにしてしまう。

受験の時に「泣くよ(794)ウグイス平安京」などとやっていたせいだろうか。

車のナンバープレートは持ち主が希望の番号を持てると聞いて、語呂あわせを作ったうえ、車の持ち主について勝手な想像をめぐらす。そうして家族に大えばりで自説を発表する。

「1955」行くゴーゴー・・・きっとスピード狂ねだとか、「8181」ヤイヤイ・・・祭り好きよね、と言う風に。

幼稚な推理遊びなのだが、やめられない。

だからうちの車は、語呂合わせを作られても大丈夫なように、陸運局から与えられた番号にしている。

花散る頃の殺人    乃南アサ 新潮 推理小説

未練          乃南アサ 新潮 推理小説 

   ★★★★☆

直木賞「凍える牙」の音道貴子シリーズ短編集。

警視庁の機動捜査隊員の音道が男性社会の中で、事件を解決していくストーリー。

音道を取り囲む周囲の人間像がいい。弱かったり、かっこ悪かったり、やるせなかったり。

みんなそれぞれに抱えている人生があり、中には他人の事件解決のために自らの家庭は崩壊している者もいる。それでも彼らを事件解決へとひたすら歩かせるものはなんなのか。大きな事件のその後も、刑事としての、そして30代女性としての音道の生活があるとわかってうれしい。この短編もいいけど、シリーズの長編「鎖」はいっきに読んだ。最近出た長編の続編が楽しみ。

女刑事音道貴子 花散る頃の殺人 Book 女刑事音道貴子 花散る頃の殺人

著者:乃南 アサ
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未練―女刑事音道貴子 Book 未練―女刑事音道貴子

著者:乃南 アサ
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