2009年12月10日 (木)

見仏記 海外篇

空気が張り詰めたように透明になってくるこの季節は、夏よりなんだが眩しい。

光自体はそれほど強くないのに太陽の位置が低く感じられるのだ。

私を取り巻くもの全てがオレンジ色の日差しに照らされ、輝いている。

その一つ一つの輝きに思わず感謝する。

見仏記 海外篇     いとうせいこう・みうらじゅん  角川書店

  ★★★★☆

韓国、タイ、中国、インドへ仏像を見るための旅の日記。いとう氏が文章を、みうら氏がイラストを担当している。楽しくライトにそして真面目に仏像を見るための珍道中。二人の思い込みたっぷりのこの本は、それでも色々考えさせられた。私もそうだけれど、日本人にはこういうタイプの人間が一番多いのではなかろうか。サムシンググレートへの畏敬は心の底にあるけれど、それを大げさに振りかざすのに危うさも感じているのだ。

海を渡ると仏像はカラーが一般的らしい。韓国はなで肩で黄色が効いていて、中国のものは緑と青が目立つそうだ。インドは大理石のものがあり、ヒンズーには仏像の源があるという。

涅槃の像を見に行く10時間近い過酷な道のりで、いとう氏が猛烈な自己反省と感謝にかられているくだりがあるが、出産の時同様の気持ちを抱いたことをふと思い出した。

韓国のいくつかの仏像が豊臣秀吉の軍によって壊されたままになっているという。信仰の対象を壊してしまうという暴挙、そしてそれを忘れないよう500年以上も保存しているという憎しみの形に、信仰とは、仏像とは、と考えてしまった。

見仏記〈3〉海外編 (角川文庫) Book 見仏記〈3〉海外編 (角川文庫)

著者:いとう せいこう,みうら じゅん
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2009年12月 1日 (火)

ミャンマー-失われるアジアのふるさと-

会社帰りに地下鉄に乗る。

時間も早いので電車内はすいていた。

向かいの座席に座っていた喜寿はこえようという男性が電車内で携帯に出た。

そして静かな車内に響く大きな声で一言だけ話して電話を切った。

「はい、185000万です」

ミャンマー-失われるアジアのふるさと-   乃南アサ著 坂斎清 写真 文芸春秋

  ★★★☆☆

紀行文。20代の頃は、ヨーロッパやアメリカが好きで出来るだけ遠くを見たかった。でも、年齢のせいか、時代のせいなのかアジアの国に関心が向く。食べ物もアジアのものの方が口に合う。私の遺伝子が喜んでいるのか。

この著書の幼い子供たちの出家のくだりが心に残った。ミャンマーでは出家という制度が貧困層救済の役割も果たしているという。最低限の寝泊りする場所と衣服そして食事が与えられるからだ。食事は大人も子供も平等に分け与えられるらしい。ただし、修行のためにその時間が厳格に決められていて毎日がラマダンのようだ。

通りすがりの旅人である著者にも惜しみなく親切を与えてくれ、その親切をどのように受け取っていいのかためらっている様子が描かれている。難しく考えないで困っている人がいたら、同じように親切にすればいいだけなのだろう。そうして世の中が善意に満ちていく。日本にいるとそんな簡単なことも忘れてしまいがちだ。豊かさって何だろう。

ミャンマー―失われるアジアのふるさと Book ミャンマー―失われるアジアのふるさと

著者:乃南 アサ
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2009年10月 9日 (金)

作家の犯行現場

真っ赤で大ぶりの華が日陰に咲いている。

燃える炎のようにも見える形の華を、不吉な華だと思い込んでいた。

彼岸のころに咲くからか、墓石近くに咲いていることが多いからか。

それとも自分の心の中にある、触れられたくない炎のような想いを思い起こすからだろうか。

作家の犯行現場 有栖川有栖 メディアファクトリーダヴィンチ編集部

  ★★★☆☆

ミステリーの舞台や作家にまつわる土地の紀行記。写真も多く、どの場所も興味深く読み進んだが、最も衝撃を受けたのが出羽三山湯殿山の「即身仏」の項。

堂宇に祭られているご本尊が、俗的な言い方をするならミイラなのだ。それは衆生を救うため上人となった修行僧である。一世行人(いっせぎょうじん)となり厳しい千日単位の山ごもり、水垢離などの修行を続け、木食行(もくじきぎょう)を行い上人(しょうにん)になる。肉体を清める目的もあるのだろう、五穀断ち、そして十穀断ちついには漆を飲むという。その後入定墓へ入りお勤めを続けながら死を迎える。死後三年三ヶ月が経過すると洗い清めて乾燥し、燻製したり、柿渋を塗ったりして厨子に納められるのだ。

なぜそのような生き方が出来るのか、それが自らのためなのか、本当に人を救うことになるのか疑問がとめどなく溢れてくる。すざまじい信仰心は感じられるものの、俗世にどっぷり浸かっている私には、苦しむ人に直接手を差し伸べるマザーテレサのような信仰の形の方が理解しやすい。きっと共通していることは、少しでも後に続く人たちの時代がより幸福になるようにということだろう。

作家の犯行現場 作家の犯行現場

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2009年9月22日 (火)

メガロマニア-あるいは「覆された宝石」への旅-

四つ角の隅で少年が二人、腕を上げ下げしている。

地面を見つめながら腕を直角に曲げ、指先を下にしてゆっくり動かしているのだ。

そうか、影をみているのだ。

じっと見つめる私の視線に気づいた少年たちは、ふっと意味ありげな微笑を浮かべたが、そのまま厳かな顔をして、その動作を続けた。

まるで何かの儀式でも行っているかのように。

メガロマニア-あるいは「覆された宝石」への旅-  

                    恩田陸 日本放送出版協会

  ★★★☆☆

中米への旅行記。旅行記だけではなく、旅先を舞台にした小説から始まりその結末で本が終わる。いかにも作者らしい旅で楽しく読み進んだ。数々のピラミッドやマチュピチュの街。焼け付くほどの強い日差しが射す日本の裏側にある標高の高い町。20日近い旅程で、作者は不思議な体験をする。それが本当のことなのか、夢なのか、はたまた彼女の頭の中の出来事なのかわからないけれど、そんな出来事が起こっても不思議でない気がしてくる。

この作者の「上と外」は傑作だが、グアテマラを旅することなく空想で書かれたというから驚く。才能が与えられている人間というのはいるのだなぁと素直に思う。

メガロマニア―あるいは「覆された宝石」への旅 Book メガロマニア―あるいは「覆された宝石」への旅

著者:恩田 陸
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2008年4月 6日 (日)

ほげらばり

久しぶりに家族旅行に出かける。

我が家としては大奮発の、飛行機あり、ホテルありの旅行だ。

ホテルにチェックインし、通された部屋はこじんまりとしてはいるが清潔でなかなか感じがいい。

家事もしなくていいし、私なりにセレブに過ごすのだ。

薄暗いのがニガテなので、点けられるだけの明かりを灯し、おもむろにテレビなどをつけてリラックスする。なんといっても優雅な休日なのだ。

普段、布団で眠っているこどももベッドに大ハシャギする。

スプリングもいいし、日ごろの生活疲れも癒えるに違いない。

真夜中、こどもが豪快にベッドからころげ落ち、その後はまた落ちやしないかとオチオチ寝られなかった私は、クマの出来た顔で写真に納まっている。

ほげらばりメキシコ旅行記     小林聡美 幻冬舎   紀行文

  ★★★★☆

サボテンのおなら  小林聡美・平野恵理子 幻冬舎文庫  紀行文

  ★★★☆☆

1993年末のメキシコ旅16日間の記録。

女社長Y氏、P編集者との旅の記録が筆者ならではの自然体で綴られていて、楽しい紀行文。「サボテンのおなら」はそのときの写真にイラストをふんだんに加えた本。ほげらばりを読んだ後に一読すると楽しさが倍増する。

とにかく彼らがどこへ出かけても小さなトラブルがついてまわり、それがなんだか可笑しくて、読み進んでしまう。必ず目論見は外れ、彼らの望みとは違う方向へ旅が進んでいくのもご愛嬌。プロレスラーのマスクを2枚も買ってしまう筆者も、流しの歌声に感激してチップを大盤振る舞いするY社長も、なぜか日本からテニスラケットまで持参してしまうP編集者も、旅行中だからこそ出てしまう素の人間性がなんだか微笑ましい。

タイトルの「ほげらばり」とはForget about it!のことだそうな。

ほげらばり―メキシコ旅行記 (幻冬舎文庫) Book ほげらばり―メキシコ旅行記 (幻冬舎文庫)

著者:小林 聡美
販売元:幻冬舎
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サボテンのおなら (幻冬舎文庫) Book サボテンのおなら (幻冬舎文庫)

著者:平野 恵理子,小林 聡美
販売元:幻冬舎
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2008年3月12日 (水)

黄昏のアントワープ

もう六時だと、焦って外を見るとまだ薄明るい。

いつの間にかこんなに日がのびていたのかと気づく。

少しずつ、少しずつ日が長くなっていたはずなのに、いきなり変化したように感じるのはなぜだろう。

春が突然来るわけではないのに。

随分時間が過ぎてから、突然知らされたかのように驚いてしまう。

自分や周囲に起こるほとんどのことは、少しずつ変わっていたはずなのだ。

だから、ほんの小さな進歩も喜ぼう。

そして些細な憎しみは忘れてしまおう。

幸せな変化ばかりに気づけるように。

黄昏のアントワープ    辻仁成   海竜社  紀行文

  ★★★☆☆   

パリ在住の作者が家族と巡ったミラノ、アントワープ紀行と、フランスのレストランについてのエッセイ。

私は旅のエッセイが大好きである。食べ物についてのあれこれがあれば申し分ない。単に、流れている旅の風景や食事を綴っているだけなのに、その人の人となりが色濃く紡ぎだされてくのも面白い。

この筆者のエッセイは何につけ思い入れタップリなうえ、気取った感じが鼻につくけれども、女優の妻との生活は意識するとせざるとに関わらず、彼らが常に被写体であることを選んでいるということなのだ。だから、スノッブなところもなんとなく納得してしまう。

トゥールダルジャンの日本人キャヴィスト(ワインケーブの管理人)林氏についての話が良かった。

黄昏のアントワープ Book 黄昏のアントワープ

著者:辻 仁成
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2007年7月 5日 (木)

イギリス、湖水地方を歩く

梅雨の中休みの晴れ間はなんだか嬉しい。

洗濯物もカラット乾くし、布団もふっくら。

空も青々と清々しくて、思わず遠くのスーパーまで自転車で出かける。

運動不足解消と買い過ぎ防止の一挙両得なのだ。

浮かれた気分で自転車を漕いでいると、塀の上の木陰で上手にネコが昼寝している。

ただのんびりと幸せそうに丸まっている。

時間に追われることもなく白いふんわりとした毛をそよがせて。

私もなんだかゆったりとした気分になって見慣れた道を進んでいく。

イギリス、湖水地方を歩く   谷村志穂 岩波書店 紀行文

  ★★★☆☆

テレビ番組でイギリス湖水地方を歩いた様子を綴った紀行文。

全く知らなかったのだけれど、英国人は世界で一番「歩くことを愛している」人たちらしい。その権利も守られていて、「フットパス」なる歩道が全国各地に張り巡らされており、フットパスに指定されていれば、たとえ私有地だろうとどんどん歩いていけるそうだ。ピーターラビットで有名なこの地方を、バックパックを背負い、清潔でこじんまりしたホテルに泊まりながらのんびりと旅していく。山登りは無理だと思うけれど、これなら私にも出来そう。いつの日かゆっくりと自然を楽しみながら歩いてみたいものです。

イギリス、湖水地方を歩く Book イギリス、湖水地方を歩く

著者:谷村 志穂
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2007年4月26日 (木)

にっぽん入門

春の風はほのかに薫る。

少しぬるい様な空気にのって春の香りが漂ってくる。

明るい日差しの中、暖かいけれど強い風がいつもの香りを運んでくる。

幼い頃過ごした土地から遥か遠くまで来たというのに、あれから幾とせも過ぎたというのに、季節が廻ってくると、同じ薫りがすることに不意に気づくのだ。

そしてぼんやりと過ぎた日々を思い起こす。

にっぽん入門  柴門ふみ 文芸春秋 紀行文

  ★★★☆☆

筆者が子供の頃から憧れていた日本固有の文化、かまくら・たらい舟・鵜飼を筆頭として、日本の文化を味わうべく旅した本。旅の目的がかの地の名物は果たして楽しいのかどうか、ということであるからにして、折角見にいった祭りも途中で引き上げたり、その力の抜け具合がサイモン流。

キャラの濃い同行者たちとのくだらないやりとりも可笑しい。今度の休暇は国内旅行だわ、絶対!

にっぽん入門 Book にっぽん入門

著者:柴門 ふみ
販売元:文藝春秋
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2006年12月18日 (月)

旅行鞄にはなびら

冬になるとどこか遠くへ出かけたくなる。

寒がりで、出不精なのになぜか無性に旅に出たくなる。

空気が澄んで景色が美しいからか、星が凛と瞬くからか。

多忙な毎日から身をかわしたいのか自分でもわからない。

結局いつもの窓際で、旅の本を読み、旅情を満足させる。

旅行鞄にはなびら  伊集院静  文藝春秋 紀行文

  ★★★★☆

絵画を見るために欧州を旅した筆者の紀行文。旅のエピソードに散りばめられた花々。この本を読み進みながら、筆者は女性にもてるだろうなと得心。女性が好きなトピックを、照れずに正面から語れる男性はそういない。紀行文やエッセイで心を突かれる言葉に出会うことはあまりないのだけれど、度々そんな文章があって、何度もそんな部分を読み返してしまった。さり気ないのにロマンティック、古めかしいのに嫌味でない言葉たち。もちろん好みがあるから、鼻に付く人もいるかも。

旅行鞄にはなびら Book 旅行鞄にはなびら

著者:伊集院 静
販売元:文藝春秋
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2006年10月17日 (火)

プラハ旅日記

昼時のカフェに行く。街のそこかしこにある、気軽に美味しいコーヒーが飲める店だ。

お店にいる人はコーヒーやサンドイッチなどを取る、夫々の空間でもって。

他の人には関わらないように、関心を持たれないように少し背を丸めて。

パシャリ。ざわめきの中デジカメの電子音がなる。

ふと見るとおじいさんが二人向かい合って座り、一人が連れの写真を撮っている。

撮られている方は姿勢を正してほんの少し笑っているような、怒っているような顔をする。

写真を撮る時はいつもそんな顔になるのだろう。腕を伸ばし、背筋も伸ばして。

記念なのか、何のための写真なのかわからないけれど、確認のためにそろってデジカメを覗き込む二人は、なんだか楽しそうだった。

プラハ旅日記  山本容子 文化出版局 紀行文

  ★★★★☆

版画家の作者が旅行中に書き記したノートがそのまま掲載されている。

文章で旅情感を綴っているタイプの紀行文とは違うけれど、スケッチやフロッタージュ(対象物に紙を当てて鉛筆でこする)が、旅の様子を生き生きと描いている。写真がないのも想像をめぐらすことができて楽しい。

いつの日か、分厚いコートを羽織り、美味しいビールと人形劇を楽しみにぜひプラハへ行ってみたい。

Book 山本容子プラハ旅日記

著者:山本 容子
販売元:文化出版局
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 本の写真がなくて残念。きれいな緑色の手帳のイラスト。

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