2008年10月16日 (木)

心臓に毛が生えている理由

同級生と今頃になって、SNSで会話をしている。

とは言っても、もっぱら盛り上がっている人たちの書き込みを眺めているだけなのだが、これが実に面白い。

普段は控えめなのに、ネットの世界になると水を得たように積極的になる人がいる。そんな人たちがどんどん書き込みをひっぱっていくのだから不思議だ。

世界各地で暮らしている同級生からも気軽に書き込みがなされ、写真や画像や音楽なども共有できる。現在だけでなく、懐かしい写真や当時の声さえも楽しむことが出来るのだ。

学生の頃は話も出来なかった人とやりとりをして、忘れていたあの頃がよみがえり、近況を喜びあう。時間が経ったからなのか、ネットという空間だからなのか。いずれにしても、素敵なことだ。

心臓に毛が生えている理由 米原万里 角川学芸出版 エッセイ

  ★★★★☆

筆者の没後、新聞等に連載されたエッセイをまとめた一冊。

この作者のエッセイはいつもながら、中欧(東欧呼ぶのは現地で嫌がられるらしい)に対する愛情と深い洞察、そして私にとっては未知の世界がちりばめられている。

特にこの本は、共産党員であったご両親について書かれていて興味深かった。筆者のアメリカ嫌いは、これまでのエッセイにもよく書かれていたけれども、ひどく偏った印象は受けていなかったので驚いた。けれど共産国で教育を受け、その後の学友や情勢を肌で感じて人となりが形成されていったのだろう。物事を多面的に見て、俯瞰的に物事を考えられる人に。

硬くなく、楽しんで読めるのがまたこの人の著書のいいところ。

心臓に毛が生えている理由 Book 心臓に毛が生えている理由

著者:米原 万里
販売元:角川学芸出版
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2008年4月 9日 (水)

此処彼処

春になると、この時期しか食べられない野菜が沢山出てきて心が弾む。

ふきのとう、たらの芽、うるい、うど、ふき、たけのこにえんどう豆にそら豆とどれもこれもいい香りがするものばかり。

少々値が張るけれど、この時期だけなのだからと自分に言い聞かせ、ささやかな贅沢をする。

これらはいずれも私の大好物なのだが、実は大人になって初めて食べたものがほとんどなのだ。

それというのも母が匂いの強い野菜がニガテだったからだ。匂いのするものと言えば、大葉くらいで、みょうがさえも食卓に上がったことがなかった。

それなのに、母が大好きでこの時期に繰り返し出されたものがある。

豆ご飯である。

私はそれが大嫌いだった。

こどもにはえんどう豆は青臭く、おまけに忙しい母は、炊飯器に直接豆を入れて炊き込むので、豆の色がどんよりとしていて、それを見ては大きなため息をつきながら、無理やりかきこんだものだった。

今では、豆ご飯も懐かしい味がして大好きになった。

料理本通り作った翡翠色のえんどう豆のご飯を食べながら、つらつら幼い頃を思い出す。

此処彼処      川上弘美  日本経済新聞社  エッセイ  

  ★★★★☆

場所について書いたエッセイ。

これまで私が読んできた筆者のエッセイは、独特の世界観があって好きだったけれど、自分自身についてはほとんど書いていなかった。けれどこの作品はこどもの頃のこと、新婚旅行のことなどが書かれてあって、ファンとしては本当に興味深かった。

母親どおしの付き合いに疲れて車を走らせるくだりは、なんだか身につまされて切なかったけれども、私だけじゃないんだとなんだか楽になった。

また、川上さんのこんなエッセイが読みたいものです。

此処 彼処 (ここ かしこ) Book 此処 彼処 (ここ かしこ)

著者:川上 弘美
販売元:日本経済新聞社
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2007年6月22日 (金)

だから、僕は学校へ行く!

ミニトマトの苗が育ってきたので大きめのプランターに植え替えた。

プランターに残っていた土を再利用するので、石灰やら油粕やらをたっぷり混ぜる。

これで栄養満点よとばかりに植え替えてしばらくするとなんだかトマトの元気が無い。

水もやり過ぎていた様だ。

放ったらかしにも関わらず毎年甘い実をつけるイチゴを見ながら、トマトもあんまり過保護は好きじゃないのねぇと気づく。

土は少しくらい痩せていて、乾いた土に水を上げるくらいで丁度良い。

過干渉が嫌なのはこどもだけではないのねぇと思いながら、水が好きな花に水遣りをする。

だから、僕は学校へ行く! 乙武洋匡 講談社 エッセイ

  ★★★★☆

なぜ筆者が公立校の教師になったのかが綴られているエッセイ。

彼が教師を目指そうとする中で、彼自身が子供の頃に人々から与えられた愛情や色々なものに改めて気づいていく過程に素直に感動。感動という言葉はやすっぽくてあんまり好きではないのだけれど、自分が到底到達しそうもない高みにいる人に接すると、やはりこう表現するしかないのかなと思う。彼は物事を正面から捉えて、自分の出来うる努力をしているのに、あくまで自然体で無理が感じられないところが卓越しているなぁと思う。あぁ、うちのこどもも乙武先生に指導していただきたいものです。もちろん、今の先生方も素晴らしいのですけれど。

だから、僕は学校へ行く! Book だから、僕は学校へ行く!

著者:乙武 洋匡
販売元:講談社
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2007年4月18日 (水)

負け犬の遠吠え

子供が学校から帰ってきた。

なんとなく元気がないのでどうしたのか聞いてみると、身体測定があったという。

「あのね、背が高くなって、背の順に並ぶと後ろから二番目になっちゃったの。」

そういえば、随分背が伸びている。

「それで何が嫌なの?」と尋ねると

「後ろに一人しかいないから、すごく心細いんだよ。」

負け犬の遠吠え  酒井順子  講談社 エッセイ

  ★★★☆☆

数年前「負け犬」という言葉が流行語にもなった本。

女性の生き方が多様化して、かえって女性は生きていくのが難しくなったと思ってしまった。未婚、子なし、三十代女性のことを良くも悪くも色々書き連ねてある本なのだけど、作者自身結局満足していないのだ。専業主婦も、子連れのキャリアも、未婚の女性も数十年前に比べたら、格段に自由で、経済的にも恵まれているはずなのに満たされていない。経験していないことはわからないし、隣の芝は青く見えるのだ。人にどう思われるかということばかり気にしていると、息がつまる。幸せは自分の中にしかないんじゃないかなぁ。

負け犬の遠吠え Book 負け犬の遠吠え

著者:酒井 順子
販売元:講談社
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2007年1月29日 (月)

なんといふ空

私は車の運転が苦手だ。だから出来るだけ運転はしないように行動する。

けれど、冬の夕方や、強い雨の日はどうしたって車を出す羽目になる。

夕方、溢れる駐輪と沢山の歩行者がいるハンバーガーショップの角を曲がると、向かいのビデオショップの前にはバイクまで停めてある。ゆっくりと前進すると、営業用の大きなワンボックスカーがこちらへ向かってきた。もうぶつかりそうだ。

そういう時は動かないに限る。かなり顰蹙をかっていたけれどしばらくの間、じっとしていたら、相手の車がなんとかすり抜けてくれた。

本当に大変だった、と友人に話したら、

「全然問題ないじゃない。私なんてどうにもならなくて、対向車の人に代わりに運転して下さい、って頼んだんだから。でも断られて本当に恥ずかしかったわ。」

対向車の人は、運転は断ったけれどきちんと誘導してくれたそうだ。

なんといふ空   最相葉月  中央公論新社  エッセイ

  ★★★★☆

自分の周りに起きたことを丁寧につづってあるエッセイ。映画化された「大阪君」についての話もさることながら、高校二年生向けの雑誌に掲載された文章が心を打った。家庭の経済問題、受験の失敗、弟のひきこもり、その後離婚などの数々の問題が起こり、少しずつ改善し、時間が経って自分を肯定していけたこと、どんな時でも理解してくれる人が現れることがさらりと書かれている。人生って、ドラマのようには一足飛びには解決しない。でもそんな風に人は生きていくことを、それでいいのだということを、若い人たちがほんの少し理解できるといいなぁと思った。

なんといふ空 Book なんといふ空

著者:最相 葉月
販売元:中央公論新社
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2006年11月 6日 (月)

またたび

こどもは色々なものをプレゼントしてくれる。

よちよち歩きの頃から、虫食いのどんぐりや、土のついた葉っぱや、へんな虫やらを。

少し大きくなると、何と表現したらよいのかわからない作品を。

お出かけのとき必ずしてね、とおもちゃのブレスレットをうやうやしく。

最近では上下巻あるハリーポッターシリーズを借りてきてくれる、下巻だけ。

もちろん嬉しいけれど、少しがっかりした顔もしてしまい、深く反省する。

母が大喜びしてくれるのを想像して、小さな手を伸ばしてくれるのに。それに応えられない稚拙さを。

そしてこどもを抱きしめる。

またたび   伊藤比呂美 集英社 エッセイ

  ★★★☆☆

2人の子供を連れてイギリス人と再婚し、アメリカ在住の筆者による食のエッセイ。現在の夫との間にも子供がいて、5人家族で明るく国際的な食卓なのだけれど、軽い調子で書かれている割には郷愁やら、悔恨やらが随所に感じられる。食に関することが書き連ねてあるはずなのに、世界中を飛び回り仕事も恋も結婚も子どもも手に入れた筆者の、未だみたされない不消化の人生記に感じられる。幸せとは形ではなく、心が満たされているかなのだなぁと思ってしまう。

またたび Book またたび

著者:伊藤 比呂美
販売元:集英社
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2006年10月23日 (月)

パンツの面目ふんどしの沽券

私はレーズンパンが好きだ。

しわしわのレーズンも、レーズンをパンからはずしたところがほんのり甘いのもみんな好きだ。

けれど、子供の頃、給食に出されるそれを大多数の少女は嫌っていた。

みんな嫌々食べたり、残したりしていた。

私は周りの様子を見て、どうしても好きだと言えなかった。

大人になった今、自分の気持ちにもっと素直に、人と違う自分も受け入れられる。レーズンの焦げた部分の苦味を味わいながら、幼かった自分を思い出す。

パンツの面目ふんどしの沽券  米原万里 筑摩書房 エッセイ

  ★★★★★

1950年生まれの筆者が、少女時代を過ごしたプラハの下着から始まる、「下半身を被う肌着に関する考察」(あとがきより)。下品というなかれ、これが大層奥深いのである。シベリア兵から始まり、キリストから古事記の時代を考察したかと思えば、モンゴルやアラブ地域の下着まで。聖書や辞典や絵画などの膨大な資料を基に綴られている文章は、時には腹を抱えるほど可笑しいし、また時には襟を正すような気持ちになる。これも人々の暮らしを伝えるりっぱな歴史本。

パンツの面目ふんどしの沽券 Book パンツの面目ふんどしの沽券

著者:米原 万里
販売元:筑摩書房
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2006年9月19日 (火)

遅咲きのひまわり

ミニひまわりがようやくつぼみをつけた。

名前の通り、ひまわりといっても高さ20センチほどのこぶりな花だ。

今年の夏は冷夏で長雨だったので、なんど種をまいても途中で芽が腐ってしまう。

なんとなくせつなくて蒔きなおし、それでもだめでまた蒔き、最後にはどうしても咲かせたい、とむきになって蒔きなおした。

例年なら花の時期はとうに終わった9月になって、けなげにも茎のてっぺんにひとつ、ちゃんとしたつぼみをつけた。

ささやかでいいから花を咲かせてね、私はちゃぁんと見てるから。

夫婦公論      藤田宜永・小池真理子 幻冬舎文庫 エッセイ

★★★★☆

少々古いエッセイ。

エッセイを読んでがっかりする人と俄然好きになる人がいるが、だんぜん後者。

「恋」を読んで小池氏にはなんとなくインテリ女性特有のスノッブさと、ある種の偏見をいだいていたが、なんとかわいらしい女性なのか。夫婦で同じテーマについて書いているのだが、ほのぼのとした愛情が伝わってきて、なんだか幸せな気分になった。

ぜひ彼らの子育てエッセイを読みたかったが、子どもは生まない主義だったそうで残念。

夫婦公論 Book 夫婦公論

著者:小池 真理子,藤田 宜永
販売元:集英社
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2006年9月12日 (火)

第1回は大好きな川上弘美さん

毎日まいにちホンを読んでその感想をおっとに話していたら、ある日おっとが疲れた顔をして言った。

「・・あのさぁ、ブログを作って感想を書いたらいいんじゃないの?」
・・・・な~んていい考えなんだろう!!

今日は第1回を記念して大好きな川上弘美さん。

卵一個ぶんのお祝い。  川上弘美 平凡社 エッセイ 

★★★★☆

彼女得意のうそ日記。ありそでなさそなクスッというエピソードたち。イラストもいい。
彼女のふわぁ~んとした文体と日常に癒されます。占い師に見てもらったという友人の話と、仁丹中毒のタクシー運転手の話がお気に入り。
ときどき出てくる子どもとのやりとりも心があったまる。ご主人のことは全く書かないようだが、どんな人がこの妻子の夫なのか興味津々。ぜひご主人のことも書いてもらいたいです。

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。 Book 東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

著者:門馬 則雄,川上 弘美
販売元:平凡社
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