2009年12月14日 (月)

涼宮ハルヒの憂鬱

夕暮れの街角を二台の自転車が行く。

ゆっくりと楽しそうに。

二人はしっかりと手をつないで、前へと進む。

女の子はいい笑顔を恐らくは彼であろう男性の方へ向ける。

ずっとそんな暖かい気持ちでお互いを思いやってね、と誰にも聞かれないようにつぶやいてみる。

涼宮ハルヒの憂鬱     谷川流  角川スニーカー文庫

  ★☆☆☆☆

高校の第一日目の自己紹介で涼宮(すずみや)ハルヒは言い放つ。普通の人間には興味がないと。事件を求めて彼女はSOS団を創設した。

中盤でハルヒの正体がわかるまでが非常に退屈で、もう少しで読むのをやめるところだった。そこからは登場する人間がすべてありえない設定で、男性の願望そのもののラストといい、いかにもアキバ。アニメ化もされているが、なぜ人気があるのか私には理解不可能だったが、むすこは面白いといって一気読みしていた。内容はともかくとして、お子さんに読書の習慣をつけたい親御さんにお勧めかも?!

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫) Book 涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

著者:谷川 流,いとう のいぢ
販売元:角川書店
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2009年12月10日 (木)

見仏記 海外篇

空気が張り詰めたように透明になってくるこの季節は、夏よりなんだが眩しい。

光自体はそれほど強くないのに太陽の位置が低く感じられるのだ。

私を取り巻くもの全てがオレンジ色の日差しに照らされ、輝いている。

その一つ一つの輝きに思わず感謝する。

見仏記 海外篇     いとうせいこう・みうらじゅん  角川書店

  ★★★★☆

韓国、タイ、中国、インドへ仏像を見るための旅の日記。いとう氏が文章を、みうら氏がイラストを担当している。楽しくライトにそして真面目に仏像を見るための珍道中。二人の思い込みたっぷりのこの本は、それでも色々考えさせられた。私もそうだけれど、日本人にはこういうタイプの人間が一番多いのではなかろうか。サムシンググレートへの畏敬は心の底にあるけれど、それを大げさに振りかざすのに危うさも感じているのだ。

海を渡ると仏像はカラーが一般的らしい。韓国はなで肩で黄色が効いていて、中国のものは緑と青が目立つそうだ。インドは大理石のものがあり、ヒンズーには仏像の源があるという。

涅槃の像を見に行く10時間近い過酷な道のりで、いとう氏が猛烈な自己反省と感謝にかられているくだりがあるが、出産の時同様の気持ちを抱いたことをふと思い出した。

韓国のいくつかの仏像が豊臣秀吉の軍によって壊されたままになっているという。信仰の対象を壊してしまうという暴挙、そしてそれを忘れないよう500年以上も保存しているという憎しみの形に、信仰とは、仏像とは、と考えてしまった。

見仏記〈3〉海外編 (角川文庫) Book 見仏記〈3〉海外編 (角川文庫)

著者:いとう せいこう,みうら じゅん
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2009年12月 8日 (火)

波打ち際の蛍

蛍を初めて見たのは大人になってからだ。

それも自然の中で見たのではなかった。

偶然通りかかった都会の街角に立てられた家庭用の倉庫のような建物の中で。

嫌がる子供たちを説き伏せ、長い行列に並び順番を待った。

クーラーが効き、厚いカーテンで真っ暗にした部屋の中で、それは飛んでいた。

想像よりずっとずっと小さくて儚げで小さな光だった。

ふわりふうわりとゆらめく沢山の蛍の光が、心の隅でじんわり暖かく灯った。

波打ち際の蛍      島本理生   角川書店

  ★★☆☆☆

川本麻由は通院先で出会った植村蛍に好意を持ち始めるのだが、彼女には新しい恋に飛び込めない心の傷があった。

以前の彼にDVを受けたからといって、あまりにじれったい麻由の態度の恐ろしい真相が読み進めていくと少しずつ明らかになる。内容が重くつらいが、この作者ならではのやわらかな雰囲気で物語が展開していく。

DVを受け続けているということも、そもそもそんな男性を見抜けなかったということも、私には信じられないことだが、実際にももっとひどい事件が報道されている。病んでいるのは加害者の方なのか、被害者の方なのか。助けようとする人の手も振りほどき、暴力が増長していく。愛欲それとも執着か。もっと大切なことのために人は生まれてきたと思いたい。

波打ち際の蛍 Book 波打ち際の蛍

著者:島本 理生
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2009年12月 1日 (火)

ミャンマー-失われるアジアのふるさと-

会社帰りに地下鉄に乗る。

時間も早いので電車内はすいていた。

向かいの座席に座っていた喜寿はこえようという男性が電車内で携帯に出た。

そして静かな車内に響く大きな声で一言だけ話して電話を切った。

「はい、185000万です」

ミャンマー-失われるアジアのふるさと-   乃南アサ著 坂斎清 写真 文芸春秋

  ★★★☆☆

紀行文。20代の頃は、ヨーロッパやアメリカが好きで出来るだけ遠くを見たかった。でも、年齢のせいか、時代のせいなのかアジアの国に関心が向く。食べ物もアジアのものの方が口に合う。私の遺伝子が喜んでいるのか。

この著書の幼い子供たちの出家のくだりが心に残った。ミャンマーでは出家という制度が貧困層救済の役割も果たしているという。最低限の寝泊りする場所と衣服そして食事が与えられるからだ。食事は大人も子供も平等に分け与えられるらしい。ただし、修行のためにその時間が厳格に決められていて毎日がラマダンのようだ。

通りすがりの旅人である著者にも惜しみなく親切を与えてくれ、その親切をどのように受け取っていいのかためらっている様子が描かれている。難しく考えないで困っている人がいたら、同じように親切にすればいいだけなのだろう。そうして世の中が善意に満ちていく。日本にいるとそんな簡単なことも忘れてしまいがちだ。豊かさって何だろう。

ミャンマー―失われるアジアのふるさと Book ミャンマー―失われるアジアのふるさと

著者:乃南 アサ
販売元:文藝春秋
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2009年11月27日 (金)

図書館の神様 

こどもが子供祭りで駄菓子を沢山貰って来た。

どれか食べていいよというので、一番派手なパッケージのものを選ぶことにする。

駄菓子は味を楽しむというより、楽しい気分になれるものがいい。

だからすかさず一番目立つ黒い袋のチョコレート菓子にした。

パッケージには大きな字で、「若い女性に大人気」と書いてあった。

図書館の神様  瀬尾まいこ マガジンハウス

  ★★★★☆

清は国語教師として海辺の中学へ赴任するが、部員がたった一人の文学部の顧問になる。その部員とのチグハグとも思えるやりとりを通して、癒されていく。

派手さはない物語なのに、久しぶりに心地よく物語の中に入っていかれた作品。文学部員の垣内君のキャラクターが抜群だ。心がほんわか温かくなった。普段はもっと刺激的で予想外に展開する話がいいと思うのに、時々むしょうにこんな安心して読み進められる物語を欲するのだ。やっぱり平和で暖かい気持ちになるのっていい。

図書館の神様 Book 図書館の神様

著者:瀬尾 まいこ
販売元:マガジンハウス
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2009年11月15日 (日)

パラドックス13

展覧会に行く。

洋画と日本画をゆっくり鑑賞する。

年齢のせいだろうか、日本画が好ましく感じられることにいささか驚く。

日本画の押し付けがましくない色合いや、絵のもつ力が心地よい。

なかでも明るい色調の風景画に心が癒される。

沢山の作品の中には理由なくひきつけられるものがあって、そういう作品の作者を見ると、私と同じ街の出身であることに気づく。

その絵は私のふるさとの、風景なのだ。

疎遠になり、滅多に思い出すこともない風景だった。

パラドックス13   東野圭吾  毎日新聞社

  ★★★☆☆

13時13分突然、地上から人々が消えた。ごく少数の生存者を残して。さらに天変地異が生存者に襲い掛かる。それは科学者によってあらかじめ割り出され、各国の中枢には知られていた13秒間に起こるP-13現象だった。

映像化が前提のような筋運び。登場人物もどの俳優がいいかな、などと思いながら読み進んだ。13人の生存者のうち、警察官の兄弟、誠哉と冬樹が中心となって物語が展開する。

理性とカリスマを備えた誠哉の言葉が心に残る。極限の時、人は何を拠り所として生き抜いていくのか。本当に善悪は変わるのか。感情を優先にする弟が対比の存在として描かれている。

私達が生きている社会は先達が作り上げたものであること、何もしていないようでも、働いて収めた税金を納めてきており、社会のインフラはその税金で作り上げられたもので、そこに生活させてもらっているのだから、目上の人たちには感謝し、敬うべきだというくだりには、本当にそうだ、と反省させられたことだった。

パラドックス13 Book パラドックス13

著者:東野 圭吾
販売元:毎日新聞社
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2009年11月 7日 (土)

娘が東大に合格した本当の理由-高3の春、E判定から始める東大受験-

夕暮れ時に子供たちの声が響く。

路地を入った小さな広場のジャングルジムのてっぺんに少年達が上っている。

夕焼け空を背にしてみんな大きな口を開けて笑っている。

それは気持ちのいい笑顔だ。

子供は恐れず高みへ登りたがる。降りられないかもしれないなどと思いもしないで。

上へ上へと上りたがるのをやめてしまうのはいつからなのか。

足元を見つめてしまうのはどうしてなのか。

子供たちの頭上に広がる桃色の空に白い三日月が昇っていた。

-高3の春、E判定から始める東大受験-                                               陰山英男  小学館

  ★★☆☆☆

百ます計算で有名な筆者の次女の受験ルポ。後半は娘さん本人による文章が載せられている。

興味がなかったけれど、勧められたので読んでみた。

曰く、コロコロと方針が変わる大学受験は情報戦なので大手進学塾で勉強すべし、とのこと。現役の教師から出た言葉であるだけにかなりのショックを受けた。陰山氏の娘さんは河合塾と通信の緑鐵ゼミナールの二本立てで勉強したそうだ。毎年のように変わる傾向と対策を練るのに、公立の学校では時間と人手が足りなすぎるという。また、私立高校は公立のようにカリキュラムが決められていないので、高校三年生の一年間は実質受験勉強に専念できるらしい。なんだか、やりきれない気持ちになってしまった。親の経済力で子供の進路が決まるのだろうか。

でも、東大は小さい頃から受験勉強を詰め込まれていない、自然の中でのびのびと育った人材を求めているという。柔軟で新鮮な発想力があるのは、そういう育ち方をした人間だと。

陰山氏の娘さんの、「勉強は自由になること。英語が話せない不自由、時事問題が理解できない不自由、そういうことから自由になることです。」という趣旨の言葉を読んで、なんだか、少しだけ、心が明るくなった。

娘が東大に合格した本当の理由~高3の春、E判定から始める東大受験~ (小学館101新書) 娘が東大に合格した本当の理由~高3の春、E判定から始める東大受験~ (小学館101新書)

著者:陰山 英男
販売元:小学館
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2009年10月12日 (月)

英雄の書

おかあさんは教育ママじゃないよね、とこどもが言った。

勉強はお母さんのためにするんじゃなくて、自分のためにするからだよ。と答えたけれど、本当は何が正しいのかわからないからうるさく言わないだけなのだ。

こどもの友達はみんな塾に行き、幼い頃から英語を学ぶ。

そうやって一流と言われる学校を出て、有名な会社に入ったりその先の学問を修めることは、悪くはないけれど、年端も行かない年齢から遊ぶ時間や寝る時間を削ってまで手に入れるほどのものなのだろうか。所詮それでも世の中の歯車に過ぎないのではなかろうかと。

そんなことより人生に満足し、何があっても負けない心の人になって欲しい。

まだ幼いこどもの顔を見ながら、三匹のこぶたでも家を作って出て行くのよ。だからあなたも大きくなったら自分の力でこの家を出て行くんだよ、と言ってみる。

いやだよというこどもの顔を見つめながら、今はこうやって一緒にいられる時間を楽しもう。ふんわか暖かい気持ちになれるこの時間を。

英雄の書  宮部みゆき 毎日新聞社

  ★★★☆☆

自慢の中学生の兄が恐ろしい犯罪を犯した。亡くなった伯父の別荘にあった「英雄」という書物に取り付かれたからだという。小学生の友理子は物語の世界へと、兄を救い出いだすために旅立つ。

ブレイブストーリーのような青少年向けファンタジーだが、大きなメッセージが込められているように感じた。全ての文章には影響力があり、その内容によって世界を良くも悪くも変えられるのだと。全くその通りだと思う。だから注意深く読む本を選ばなければならないし、ただやみくもに何もかもを受け入れるのではなく、判断する力を持たなければならない。売れればいいとばかりに刺激的な内容の書物を大々的に宣伝したりしているが、読者はそれに振り回されることなく、良書を選んでいかなければ。

英雄の書 上 Book 英雄の書 上

著者:宮部 みゆき
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英雄の書 下 Book 英雄の書 下

著者:宮部 みゆき
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2009年10月 9日 (金)

作家の犯行現場

真っ赤で大ぶりの華が日陰に咲いている。

燃える炎のようにも見える形の華を、不吉な華だと思い込んでいた。

彼岸のころに咲くからか、墓石近くに咲いていることが多いからか。

それとも自分の心の中にある、触れられたくない炎のような想いを思い起こすからだろうか。

作家の犯行現場 有栖川有栖 メディアファクトリーダヴィンチ編集部

  ★★★☆☆

ミステリーの舞台や作家にまつわる土地の紀行記。写真も多く、どの場所も興味深く読み進んだが、最も衝撃を受けたのが出羽三山湯殿山の「即身仏」の項。

堂宇に祭られているご本尊が、俗的な言い方をするならミイラなのだ。それは衆生を救うため上人となった修行僧である。一世行人(いっせぎょうじん)となり厳しい千日単位の山ごもり、水垢離などの修行を続け、木食行(もくじきぎょう)を行い上人(しょうにん)になる。肉体を清める目的もあるのだろう、五穀断ち、そして十穀断ちついには漆を飲むという。その後入定墓へ入りお勤めを続けながら死を迎える。死後三年三ヶ月が経過すると洗い清めて乾燥し、燻製したり、柿渋を塗ったりして厨子に納められるのだ。

なぜそのような生き方が出来るのか、それが自らのためなのか、本当に人を救うことになるのか疑問がとめどなく溢れてくる。すざまじい信仰心は感じられるものの、俗世にどっぷり浸かっている私には、苦しむ人に直接手を差し伸べるマザーテレサのような信仰の形の方が理解しやすい。きっと共通していることは、少しでも後に続く人たちの時代がより幸福になるようにということだろう。

作家の犯行現場 作家の犯行現場

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2009年9月22日 (火)

メガロマニア-あるいは「覆された宝石」への旅-

四つ角の隅で少年が二人、腕を上げ下げしている。

地面を見つめながら腕を直角に曲げ、指先を下にしてゆっくり動かしているのだ。

そうか、影をみているのだ。

じっと見つめる私の視線に気づいた少年たちは、ふっと意味ありげな微笑を浮かべたが、そのまま厳かな顔をして、その動作を続けた。

まるで何かの儀式でも行っているかのように。

メガロマニア-あるいは「覆された宝石」への旅-  

                    恩田陸 日本放送出版協会

  ★★★☆☆

中米への旅行記。旅行記だけではなく、旅先を舞台にした小説から始まりその結末で本が終わる。いかにも作者らしい旅で楽しく読み進んだ。数々のピラミッドやマチュピチュの街。焼け付くほどの強い日差しが射す日本の裏側にある標高の高い町。20日近い旅程で、作者は不思議な体験をする。それが本当のことなのか、夢なのか、はたまた彼女の頭の中の出来事なのかわからないけれど、そんな出来事が起こっても不思議でない気がしてくる。

この作者の「上と外」は傑作だが、グアテマラを旅することなく空想で書かれたというから驚く。才能が与えられている人間というのはいるのだなぁと素直に思う。

メガロマニア―あるいは「覆された宝石」への旅 Book メガロマニア―あるいは「覆された宝石」への旅

著者:恩田 陸
販売元:日本放送出版協会
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