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2009年8月30日 (日)

のぼうの城

幼い頃、砂場で山を作るのが大好きだった。

出来るだけ大きくそして叩いて固めるのだ。

スコップでとんとんと何度も繰り返し叩いて硬くする。

そして手前と向こう側から穴を掘ってトンネルを作るのだ。

奥深く穴に腕を伸ばしていって、反対側の穴とがぶつかり合い、トンネルが貫通する時、手と手が触れる。

その感覚がなんとなく気持ち悪いのに好きだった。

それから山の周囲に道に見立てた溝をほり、水を注ぎ込む。水を入れる容器を持った子供たちで何往復もして水を注ぎ込む。

何も考えず、ただひたすら繰り返す。

陽が傾いて水に落ちばや虫がぷかぷか浮かぶ頃、ようやく満足して家に帰るのだ。

のぼうの城   和田竜 小学館

  ★★★★☆

関白秀吉の軍勢が小田原城を本拠地にする北条方を攻め落とした。館林の忍(おし)城を除いては。石田光成が率いる2万の軍勢と水攻めにも屈しなかったのは、でくのぼうの「のぼうさま」と呼ばれる成田正親が率いる3000人ほどの民だった。

登場人物が全て魅力的に描かれている。それぞれが自分の立場や想いを抱えた上で、あきらめず懸命に生きていて清清しい。

また、この物語の後味がいいのは、どちらも勝ち戦だったからだ。成田軍はこの戦いに勝ったが、本営は負けた。それはすなわち石田軍はこの戦いには負けたが勝利したということだ。

だが、一番の功労者は秀吉に差し出された甲斐姫だろう。後に秀吉の愛妾となり父親に大きな領土を授かることに成功している。抗えない運命を嘆くことなく、強く前向きに生きた女性。現代の私達は伴侶も生き方も自分で決めることが出来る。幸せをかみしめて文句を言わず、生きていかなければ。

のぼうの城 Book のぼうの城

著者:和田 竜
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2009年8月13日 (木)

訪問者

幼かった頃はまだのどかな時代で、お客さんが来ると「外で遊んでいらっしゃい」と言われたものだった。

そんな時はいつもそわそわして、ただ雑草を引き抜いたりして、あまり楽しくなかったことを思い出す。

お客さんが持ってきたお土産が気になってしかたがなかったのだ。

大抵、子供がいるうちだからと高価な洋菓子だった。滅多にケーキなど食べられなかったし、いかにも高級そうな缶の箱に入ったクッキーやビスケットは特別のものだった。

その日はプリンだった。ケーキ屋さんの本物のプリンよと母が言う。

お客さんが帰った後、待ちかねて食べてみると全然美味しくなくて涙が出た。どうしたのかねぇという祖母の声を聞きながら、「苦い」と言えず外に出て、カラメルの部分を外に吐き出した。こころが痛かった。

もっとも今では、苦いプリンを平気で食べるこどもと、美味しいねと一緒に味わうのだけれど。

訪問者  恩田陸  祥伝社

  ★★★☆☆

初老の兄弟が集う湖近くの豪邸に、事故死した映画監督の親友がやってきた。豪邸の持ち主だった女夫人も不慮の死を遂げているようなのだ。不可思議な死の真相は明らかになるのだろうか。

各章がほとんど同じ文章で始まっていて、いつどんな展開になるのかと思える導入だ。豪邸とその周囲だけで物語が進んでいき、そのまま舞台化出来そうだ。事実、この作者は芝居を題材にした小説もいくつか発表していて、そういったことも視野に入れているのかもしれない。

個人的な趣味の相違だとは思うが、「中庭の出来事」以外の芝居テーマの小説がイマイチだったように、この作品も恩田作品としては若干期待はずれだった。とはいっても、充分に面白かったのだが、期待値が高いのでどうしてもそう思ってしまう。

リセシリーズの新作はもう出ないのだろうか。

訪問者  /恩田陸/著 [本] 訪問者 /恩田陸/著 [本]
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2009年8月 6日 (木)

西の魔女が死んだ  

休暇で訪れた街は海の匂いがした。

人々はのんびりと親切で明るい。

いつのまにか自分の食べる速度やおっとの歩く速度が遅くなっている。

そしてこどもはゲームやテレビのことなど忘れて楽しく遊ぶ。

大きな空と沢山の緑に海。

沢山のエネルギーを自然からもらって笑顔が多くなっているのに気づく。

さぁてまた、いつもの毎日をがんばろう。

西の魔女が死んだ  梨木香歩 新潮文庫

   ★★★☆☆

中学に入って学校に行かれなくなったまいは、英国人の祖母と田舎で暮らすことになった。そこでまいは魔女修行を始めたのだ・・

魔女になるには、全て自分で決めなければならないと祖母が主人公の少女に語っている。人として当たり前のことなのだけれど、思春期の子供に理解させるにはいい例えだなと思った。いじめが元で不登校になってしまうのだが、他はいたって恵まれた少女である。中学生にしては幼すぎる感は否めないが、映画化されたくらいだから、現代の子供としては妥当なのだろう。

私は家庭の事情が複雑だったから、学校は現実逃避ができる楽園だった。どこかのグループに入らなければならないとか、相手にしてくれない子がいるだとか、そんなことあまりにも小さな問題で気にもならなかった。

ただ、今の子供より幸運だったのは携帯電話がなかったことだ。自宅の電話もコードレスなどなくて、居間にあったから親の監視下にあり、急用もないのに電話などかけられなかった。だから学校の門を出てしまえば、また登校するまで人間関係が途切れるのだ。

豊かになるというのは良いことばかりではないのだろうか。そんなことはないはず。豊かになって出来た余裕の部分で、小さくとも人のためになることができると思いたい。

西の魔女が死んだ (新潮文庫) Book 西の魔女が死んだ (新潮文庫)

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2009年8月 1日 (土)

蒲生邸事件

雑誌を見ていて衝撃を受けた。

それは江戸時代が始まった頃に作られたお地蔵様の写真だった。

お地蔵様の頭の先からつま先まで、紐でぐるぐる巻きにされているのだ。

前を見ることも出来ず、おそらくは身動きすることも出来ないといったほどに。

そのお地蔵様を紐で縛ると願いがかなうという。

400年もの間、さまざまな人々の沢山の願いをかなえてきたのだろうか。

命がけの願い、ささやかな願い、愚かな願い。

紐に込められた願いを裁くことなく、愚痴ることなくそんなにも長い間。

必ずお地蔵様に会いに行こう、そう思いながらその小さな写真をじっと見つめた。

私もその時紐を持っていくのだろうか。

それでもきっと許して下さるだろう。

蒲生邸事件  宮部みゆき  文春文庫

  ★★★★☆

孝は予備校受験のために宿泊していたホテルで火災に巻き込まれる。意識が戻った時彼がいたのは昭和11年、2・26事件直前の蒲生邸だった。

かなりの長編だが、さすが宮部作品、一息に読んでしまった。時間旅行者が過去に行って歴史を変えるという、お決まりのパターンなのだが、それに歴史の重さ、命の尊さ、平凡であることの有難さが織り込まれている。蒲生大将とその家族は宮部氏の創作だけれど、史実も存分に織り込まれ読み応えがあり、考えさせられることも多かった。

私もやはり思う、人生をやり直せるとしてもそうしたくないし、歴史を書き直す必要は全く無いと。愚かな過ちや愛する人を失う苦しみは出来るものならなかったことにしたいけれど、全てのことには意味がある。過去を受け止め、もがきながらも生き抜いていくことが定めであるし、価値のある人生なのだと。

蒲生邸事件 (文春文庫) Book 蒲生邸事件 (文春文庫)

著者:宮部 みゆき
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