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2009年7月17日 (金)

ネクロポリス

光景が浮かぶ果物と言えば、無花果が一番で、夏の盛りの実が熟した頃になると、近所の人たちが一斉に集まって、思い思いに無花果の実をもぎっては食べたものだった。

実をもぎった断面は白い汁がでて、それが不思議だった。牛乳なのか、それとも無花果の血なのだろうかと考えながら、手にその白い汁をなすりつけ、皮をむいてかぶりついた。良く熟れた実の柔らかさとみずみずしさが美味だった。

その木が誰のものだったのかは確かではないけれど、一軒では食べきれるものではないし、天からの恵はみんなのものだというような、のどかでおおらかな時代だった。

店頭に並ぶ無花果はきちんと包まれ高価なのに、食してみるとがっかりする。

照りつける日の下で、良く売れた実をみんなで集まって食べるのは、何と贅沢だったことか。

ネクロポリス    恩田陸 朝日新聞社

  ★★★★☆

V.ファーと呼ばれる島でヒガンなる行事が行われるという。その土地出身者の血縁者だけが参加できるという。初参加のジュンイチロウの周りで不可解な事件が起こっていく・・。

どうしたら、こういう発想が出来るのだろう。日本の古い風習がイギリス風に発展していったら、という空想から物語が広がっていったのか。確かに舞台を日本にしたら怪談になってしまいそうだが、曖昧な土地にしたせいで不気味ではない不思議な世界観が出来上がっている。日英の混在振りがしっくりいっている気になるから不思議だ。登場人物の共通言語が何語かというのも気にならない。

死者と再び話せたら、というのは多くの人が抱えている想いなのだろうか。

私にも、もう一度だけ会って詫びたい人がいる。

ネクロポリス 上 Book ネクロポリス 上

著者:恩田 陸
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ネクロポリス 下 Book ネクロポリス 下

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2009年7月11日 (土)

喋々喃々

私の住むこの地方はお盆が早い。

提灯や、お供えなどお盆の道具が店に並ぶ。

私が育った家は、幸せいっぱいの家庭ではなかったけれど、母は毎年きちんとお盆を準備した。

仏壇に野菜でつくった馬を並べ、迎え火を焚いてご先祖をお迎えしたものだ。

子供心にもその日は、世間並みのきちんとした家族だという気がして、本当に嬉しかった。

だから母となった今でも、お盆はきちんと行っている。

故郷で母が行っていた八月に。

迎え火を、花火のようにはしゃぐこどもの姿を眺めながら。

喋々喃々      小川糸  ポプラ社

   ★★☆☆☆

谷中でアンティーク着物店を営む栞は顧客の春一郎と恋に落ちて・・。

寺町で和風で粋な暮らしをしたい人のためのガイドブックと思えば、興味深い本だと思う。出てくる小道具や着物の取り合わせ、食事などどれをとっても心をそそられる。

しかし、である。いい年の男女の不倫は、いくら言葉を飾り言い訳を並べても純愛にはなりえず、かえってかまととぶりが文学作品としての質を下げているのではないか。題名の意味も「男女がむつまじく語り合うさま」。青春小説でもあるまいし。

もっとも、この作品の良さはどっちつかずで足踏みしているところなのかもしれない。

喋々喃々 Book 喋々喃々

著者:小川 糸
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2009年7月 4日 (土)

1Q84

オートバイに10代と思しき青年が乗っている。

スピードを急速に上げて、私達の車を抜き去っていったのだが、なぜか妙な違和感がある。

乗り物に対して、青年がやけに小さいのだ。

彼が乗っているバイクはおそらく400ccくらいの中型だから、子供が乗っているのならばともかく、大きすぎることはないだろうと思いながら、小さくなっていくバイクを眺めていてはた、と気づく。

車用の、それもかなり太いタイヤをつけているのだ。

彼の感覚は突き抜けていて、それは奇妙で微妙にずれている。

なんだかいつかどこかでも、こんな感覚を体験したような。

1Q84    村上春樹 講談社

  ★★★★☆

青豆は腕のいいマーシャル・アーツの女性インストラクターだが、他の仕事を持っている。そして、ある依頼を受ける。

一方、天吾は塾の講師をしながら小説を書いているが、ひょんなことから小説のリライトを引き受けることになり、大きく生活が変わっていく。彼女と彼の接点とは・・。

社会現象になるほどの話題が先行して色々と批判も多いけれど、私にとっては、近年の作品の中では一番読み応えがあって、彼の作品で初めて涙した。これまでは独特の作風が好きで、もらさず作品を読み続けてきたけれども、正直に言って感性の部分といおうか、突き詰めれば娯楽の要素が強く、心が揺さぶられたことは一度もなかった。しかしこの作品では、天吾が最終章で父親を理解するくだりには思わず泣けてしまった。通勤電車の中で読んでいたので、かなり気恥ずかしかったけれども。

特別な経験をしなくても、ただ年を重ねるだけで理解できるようになることがあるし、立場が変わっていることに気づくことがある。私も、いつのまにか主人公の天吾ではなく、彼の親の立場からこの作品を読んでいたのだ。

この作品の主題から切り離せないだけに性が多く出てきたけれども、青豆と親友のからみは不必要だし、唐突に感じた。男性筆者が女性の性を描くとどうしてこんなに飢えた感じの女性ばかりになるのだろう、女の性はもっと受身なのではなかろうか。それとも私の思い違い?まさかね。

1Q84 BOOK 1 Book 1Q84 BOOK 1

著者:村上 春樹
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2009年7月 2日 (木)

科学の扉をノックする 

願いが一つだけ叶えられるとしたら、どんなお願いをする?とこどもが尋ねる。

そうねぇとしばし考えてみる。

普段はあれも足りない、これも不満足と思っているくせに、途端に何も浮かばない。

お金持ちになるとか、何か無いの?と重ねて聞いてくる。

もちろん私だって人並みの願いや悩みはあるけれど、大いなるチカラを使ってまで叶えたいような願いはないのだ。

今のままで充分だよと言おうとしてはたと思いつく。

いつまでたっても上達しないテニスの、素晴らしい才能が欲しい。

科学の扉をノックする  小川洋子 集英社

   ★★★★☆

7つの分野の専門家に作者が会いにいったルポ。

文系の筆者が科学について理解したことを書いているので、非常にわかりやすく面白い読み物だった。

私がとりわけ興味深かったのは、遺伝子学者、遺体科学者の項だった。

遺伝子をつきつめていくと万物が共通の要素から出来ていることがわかるという。見事なまでの規則性があり、サムシンググレートと呼ぶしかない力を感じると。

そして作者の遺体学者への思いのめぐらし方が、まさに作品のモチーフや作風と重なっていてルポなのか、小説なのかわからなくなるほどだ。

それにしても、私達は実に色々なものに囲まれて生きており、誰も気づかないようなものにも心を奪われて人生をささげる人がいることに驚く。

科学の扉をノックする Book 科学の扉をノックする

著者:小川 洋子
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