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2008年9月 4日 (木)

九月の四分の一

雨の日も風の日もどんなに暑い日や雪の日も、その青年は郵便を届ける。

時には、こちらが恐縮してしまうほど深々と頭を下げ、丁寧に郵便を手渡してくれるのだ。

それはうちに限ったことではなく、ご近所の一軒一軒にもその青年が愚直といえるほどの誠実さで、配達しているのがリビングの窓から見える。

人が見ていなくとも、ささやかな仕事であっても、褒められなくとも、彼はきちんと自分のやり方を続けていくのだろう。

ステータスや高収入はもしかしたら得られないかもしれない、でも彼は彼自身も気づいていないかもしれないけれど、他のもっと素晴らしいものを既に手にしている。

まごころというお金で買えない宝をたっぷり持っていて、周囲に与えているのだ。

そんな彼の幸運な前途を、名前も知らない私は願っている。

九月の四分の一  大崎善生 新潮文庫 小説

  ★★★☆☆

短編集。

40歳前後の男性が、満たされない現状と過去の恋愛をからめて紡ぎだす物語。

どの話も、脇道に逸れていく人生しか歩めない男が描かれている。りっぱな学歴や約束された将来を皮肉ってしか生きていかれず、そんな彼を理解している女性をも受け入れられない男性。自分勝手に生きているくせに満たされない現実。なんだかうんざりするような男なのに、筆者の文体のせいか素敵な男に思えてしまう。

でも、こういう男はやっぱり、小説の中だからいいんだけど。

九月の四分の一 (新潮文庫) Book 九月の四分の一 (新潮文庫)

著者:大崎 善生
販売元:新潮社
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