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2008年8月 4日 (月)

お父さんと一緒に四国遍路

涼しげな眼をしたその人は、明るく、冗談を言ってはよく笑う人だった。

そんな彼女にふさわしく、年若くして素晴らしい伴侶と出会い、可愛い子供たちも授かって、先を歩いていく彼女を眩しく思っていたものだった。

ある日突然、最愛のご主人がこの世を去って彼女の生活は一遍する。

幼い子を抱え、彼女が歩き始めると決めた道のりは余りに険しくて、不甲斐ない私は、友として、彼女の苦しみを受け止めてあげることも出来ず、何を語りかけたらいいのか、どうすべきなのか全くわからないのだった。

彼女が気丈に振舞っているのを、ただおろおろしながら傍観しているだけだった。

妻として、母としての例えようのない悲しみや苦しみ、そして憎しみ・・・私はそれをどれ位理解できたのだろうか。

少しでも分かち合おうとしただろうか。

否、否。

結局、私に出来ることはただ一つ、祈ることだけだった。ご主人に、そして神様に。

お父さんと一緒に四国遍路  安田あつ子  文芸社 手記

交通事故で亡くなったご主人を想い、作者は二人の子供と四国巡礼の旅に出る。それは、険しい道のりだけれども、同行二人、最愛の夫との道行きであった・・・。

日程表や地図、持ち物なども網羅され、一緒に巡礼をしているような気持ちで読み進んだ。

5歳と10歳の子を連れ短い旅をするだけでも大変なのに、大きな荷物を背負い、何度も四国に足を運んで、お偏路を結願させている。やむにやまれぬ思いがあったとはいえ、経済的にも、肉体的にも厳しい旅の中で彼女はどんなことを感じ、一歩一歩歩いていったのだろう。包み隠さず書かれている心の内が切なく、苦しみが伝わってくる。彼女が事故以来七転八倒してきたものは、相手への憎しみだったのではない、他ならない自分自身への怒りだったのではないだろうか。他者には理解不能でそれがさらに彼女の苦しみに追い討ちをかけたのだろう。

「必然の旅だった」と本にも書かれているが、そんな彼女を救い出すための、ご主人からの贈り物の旅なのだと深く感じた。お遍路の最初に本当にあどけない顔をしていた子供たちが写真ごとに成長していくさまも胸を打つ。彼女にとって、なんと心強い相棒達だったことだろう。旅を続けていく中で、彼女が少しずつ自分をゆるしていき、周囲の人々に心からの感謝で満たされていく様子に感動した。

そして、私も実感した。彼女は決して変わってなんかいなかった。ずっと昔のままのあの人だったと。

お父さんと一緒に四国遍路 Book お父さんと一緒に四国遍路

著者:安田 あつ子
販売元:文芸社
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