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2008年6月 3日 (火)

真鶴

雨の中、買い物に行く。

横断歩道の手前で、高校生くらいの少年が楽しそうに傘を振りながら、私の車が行過ぎるのを待っている。

小さな子供が歌いながら傘を振るように上下にリズミカルに。

少年が振り返った方向を見ると、母親らしき女性が微笑みながら、彼の後ろをゆっくりと歩いている。

彼は足踏みしながら私の車ではなく、母親を待っていたのだ。

なんだかふいに胸が熱くなった。

息子さんの時間はきっと幼子のままなのだ。

母親にとっても変わらず、かわいらしい小さな、守るべき我が子のままなのだ。

私の子供が幼かった頃、ほんの少しの道のりが楽しく長く感じたものだった。

ささやかで当たり前の出来事が、それは特別に感じたものだった。

与えられていたものの大きさに、今更ながら気づく。

真鶴    川上弘美  文藝春秋  小説

  ★★★★☆

私は真鶴へとやってきた。何度も、なんども。あるときは一人娘の百と、あるときは一人で。去っていった夫の面影を求めてなのか、それともついてくるもののせいなのだろうか。

いつもの作品と違って、人間の狡さや泥臭さも描かれた重い作調になっていながら、作者独特の世界も残っていてよかった。最愛の夫に去られ、それでも幼子を抱えて日常をこなして月日を送っていかなければならない女の哀しみ、強さ、そして狡さが胸を打つ。このエンディングも、10年前の私だったら納得いかなかったと思うけれど、こうなるだろうなぁと腑に落ちたのだった。人間って変わっていくのだ。文学の楽しみも自分の年齢によって変わっていってそれが本当に奥深い。

真鶴 Book 真鶴

著者:川上 弘美
販売元:文藝春秋
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コメント

こんにちは。

真鶴、興味深いお話でしたよね。
僕もこの作品読んで、子供の頃のことを最初に心に思い浮かべたので興味深く、記事を読ませていただき、コメント残させていただきました。

また遊びにいきまーす。

投稿: kbb | 2008年7月 5日 (土) 14時01分

こんにちは。
コメントありがとうございました。
川上弘美さんの作品は、不思議な世界なのに心が添うと言おうか、大好きな作家さんです。

これからも宜しくお願いします。

投稿: ゆっこ | 2008年7月 7日 (月) 14時46分

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