« 2008年2月 | トップページ | 2008年4月 »

2008年3月31日 (月)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか

桜が花開くと、どうしてこんなにも街は華やかに色づくのだろう。

いつもと同じ道、いつもと同じ風景なのにずっと美しく感じるのだ。

歩いても、自転車でも、車で流しても。

取り立てて嬉しいことなどなくとも、心が軽やかに弾んでいるのがわかる。

満開の桜を眺めていると、通りすぎたちっぽけな思い出や、心に貯めていた哀しい気持ち、そして今過ぎ去ろうとしているこの時間も、なんだか特別の素敵なものに思えてくる。

毎年間違いなくこの季節が巡ってくることを感謝して、桜をただ眺める。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか  北尾トロ  文春文庫 ルポ

  ★★★★☆

裁判所とは無縁だった作者が、この本の執筆のため傍聴した裁判について、作者のイラストを交えて紹介している本。

裁判員制度が始まるという。恥ずかしながら私は、それがいつ、どのように始まるのか今もってわからない。新聞などに掲載されている広告では詳細が全くわからないのだ。あれで理解できる人がいたら、お目にかかりたいくらいだけれども、文句ばかり言っていても始まらない。人が人を裁けるのか、突然、国民の義務ということで行わなければならないというけれど、果たしてこの私がそんな大役を果たすことが出来るのか、それに裁判の結果に恨まれても恐ろしいしと不安ばかりつのっていたら、この本を見つけたのだ。

題名も表紙も文体もかなりやわらかいのだけれど、きちんと伝えたいことは伝わってきた本だった。つまり、裁判に関わる人全てにとって、裁判というのはきちんと公になった方がよりその本来の意義を果たしやすいということ、そのためにみんなが裁判に関心を持った方がいいということが書かれていた。

色々な人間模様が描かれていて、時には不遜ではあるけれども笑ってしまったり、深く考えさせられたりした一冊。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫) Book 裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

著者:北尾 トロ
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2008年3月24日 (月)

異邦人

異国の人と恋に落ちて妹は旅立った。

その人との子供を授かり、その人の祖国へ向かうために。

会うたびに彼女は、少しずつ異国の匂いをさせていき、その国の人になっていく。

生まれ育った国の政治はわからなくとも、その国の選挙について熱く語り、

自分の国の歴史を姉妹で話し合ったことなどないのに、その国の歴史について教えてくれるのだ。

変わっていく彼女のことがなんとなく寂しいような、ほほえましいような。

けれど、食べ物は日本のものが恋しいらしく、梅干しにお味噌やおせんべいやらおまんじゅうといいながら、目を輝かせる。

そんな彼女の小さな興奮を見て、「うん、芯はまだまだこの国の人なんだなぁ」となぜかほんの少しだけ、安心する。

異邦人   P.コーンウェル 講談社  ミステリ

  ★★★★☆

スカーペッタシリーズ第14作。

イタリア旅行中のアメリカ人女性テニスプレーヤーが惨殺された。その事件は複雑にからむ事件の一端だった。

この作品が楽しめるところは、事件の内容だけでなく、長く続くこのシリーズのおなじみの登場人物たちの関係が時とともに変化していき、それが気になって新作が出るたびに読んでしまう。正直に言って、最近の何作かはあまりいい出来ではなかったように思うのだけれど、この作品は久々の秀作だと思う。

女主人公に20年以上も片思いを続けている元刑事マリーノが、作品を重ねるごとに魅力のない人物になっていくのが残念。私はこういう味のある脇役が大好きなのだ。マリーノをなんとかできないでしょうか、コーンウェルさん。

異邦人 上 (1) (講談社文庫 こ 33-26) Book 異邦人 上 (1) (講談社文庫 こ 33-26)

著者:パトリシア・コーンウェル
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

異邦人 下 (3) (講談社文庫 こ 33-27) Book 異邦人 下 (3) (講談社文庫 こ 33-27)

著者:パトリシア・コーンウェル
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年3月12日 (水)

黄昏のアントワープ

もう六時だと、焦って外を見るとまだ薄明るい。

いつの間にかこんなに日がのびていたのかと気づく。

少しずつ、少しずつ日が長くなっていたはずなのに、いきなり変化したように感じるのはなぜだろう。

春が突然来るわけではないのに。

随分時間が過ぎてから、突然知らされたかのように驚いてしまう。

自分や周囲に起こるほとんどのことは、少しずつ変わっていたはずなのだ。

だから、ほんの小さな進歩も喜ぼう。

そして些細な憎しみは忘れてしまおう。

幸せな変化ばかりに気づけるように。

黄昏のアントワープ    辻仁成   海竜社  紀行文

  ★★★☆☆   

パリ在住の作者が家族と巡ったミラノ、アントワープ紀行と、フランスのレストランについてのエッセイ。

私は旅のエッセイが大好きである。食べ物についてのあれこれがあれば申し分ない。単に、流れている旅の風景や食事を綴っているだけなのに、その人の人となりが色濃く紡ぎだされてくのも面白い。

この筆者のエッセイは何につけ思い入れタップリなうえ、気取った感じが鼻につくけれども、女優の妻との生活は意識するとせざるとに関わらず、彼らが常に被写体であることを選んでいるということなのだ。だから、スノッブなところもなんとなく納得してしまう。

トゥールダルジャンの日本人キャヴィスト(ワインケーブの管理人)林氏についての話が良かった。

黄昏のアントワープ Book 黄昏のアントワープ

著者:辻 仁成
販売元:海竜社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年3月 4日 (火)

チェリー

この季節になると、桜の枝の周囲がほんのり桜色に見えてくる。

黒い細い枝で硬くなって寒い冬の間耐えてきたのが、嬉しそうにゆるやかに緩んでくるかのように。

不思議なもので、家をでる時に見える桜の開花を今か今かと望んでいるのではなく、ちょうどいい時期に今年も花開いてほしいと願う。

桜は別れの季節より、出会いや始まりに咲いてこそ相応しい花だから。

いろいろあっても、新たなスタートが明るい希望に満ち溢れるよう、そんな季節に街に咲き誇る花であって欲しいのだ。

どんなに苦しくても悲しいことがあっても、桜に包まれてまた新しく始めればいい、全ての人にとって春がそんな季節でありますように。

チェリー       野中ともそ  ポプラ社 小説

  ★★★☆☆

両親の離婚で突然帰国したぼくは、日本の中学に馴染めずにいた。発音の良すぎる英語も、たどたどしい日本語もからかいの対象になったからだ。そんな時、伯父がアメリカの家を売るため渡米する際、同行することになる。そこには大層風変わりな、伯父のかつての妻の母親モリーが住み着いていて、僕は彼女と過ごすことになる・・・。

アメリカ在住の作者が書いていて、アメリカの匂いが強いけれど、それがちっとも嫌味じゃない。内容も日本人が描くとドロドロしそうなのに、清らかに爽やかに感じられるから不思議だ。

周囲とずれていて居場所がない人々を暖かく包むモリー。現実には、少しも他人とずれていない人なんかいない。どんな人だって、自分だけの譲れない価値観があって、それを認めてもらいたい、愛されたいと望んでいるのだから。だから求めるだけでなく、できる範囲でいいから、愛を出していくことが大切なのだ。

作者の名前の「ともそ」、最初は誤植かと思った。最近のグループ名とか、名前とか、なんだか難しい。

チェリー Book チェリー

著者:野中 ともそ
販売元:ポプラ社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2008年2月 | トップページ | 2008年4月 »