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2008年2月27日 (水)

サムライカアサン

「私ね、この年になってもお母さんが恋しい。」

とその人は言った。

私より少し年上の、いつも穏やかに笑っている素敵な人だ。

可愛い二人のお嬢さんと優しいご主人と暮らしている彼女は、何の不自由もないように見える。

「時々、何もかも放り出して帰りたくなることがあるの。」

小さく続けてつぶやく。

それを聞いて少し胸がうずいた。

私は苦しい時だってそんな風に母を思い出したりしたことがない。私はもう大人で、母には母の人生があるのだから、とずっと自分を言いきかせてきた。

母親が恋しいと素直に言える彼女を、そんなにも娘に慕われる彼女の母親を本当に幸せだと思った。

サムライカアサン    板羽皆 集英社  漫画

  ★★★★★

高校生の一人息子たけしを精一杯愛するおかあさんと、温かく包み込むおとうさんの暖かく、涙が止まらないしみじみ心に染み入る物語。

このブログには漫画を取り上げまいと思っていた、この話と出会うまでは。タイトルと表紙を見る限り、この内容は想像つかないと思うけれど、全ての人にぜひ読んでもらいたい作品だ。

平凡な母親が子供にありったけの愛情を注ぎ、決してかっこよくないけれど、純粋でとても美しい。

仕事をバリバリとこなし、リッチで着飾っている母親がもてはやされて、つい自分もそうなりたいと思ってしまうけれど、考えてみるとそれは母親の都合ばかり。

美しくりっぱな母よりも、普段着でもニッコリ笑っているおかあさん、ふんわり暖かく安心できるおかあさん、美味しいものを作って待っていてくれるおかあさん、そして全てを許してくれるおかあさん、私だってそんなお母さんのほうがいい。

私はこどもにとってどんな母親なんだろう。

寛大なこどもに随分ゆるしてもらっているよな、やっぱり。

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2008年2月21日 (木)

サウスバウンド

週末の朝、カーテンを開けてみると一面雪が積もっていた。

雪が積もるのを心待ちにしていたこどもが、大きな声を上げて喜ぶ。

スキーウエアに手袋、毛糸の帽子に長靴といういでたちで、外へ飛び出していく。

次から次へと降り続く雪を暖かい部屋から眺めながら、週末に降る雪はなんて素敵な贈り物なのだろうと嬉しくなる。

もちろん、週末でも働いている人たちは沢山いるのだけれど、雪が大好きなこどもたちが思う存分遊べるのだから、やっぱり休みの日に降るのがいい。

いつのまにか近所のこどももやってきて、自分達の体くらいの大きな雪の玉を作り上げている。

こどもがおっとに雪ダルマを完成させてくれと、呼びにやってきた。

戻ってきたおっとに上手くできたかと尋ねると、腰が痛くてね、と苦笑いしている。

しばらくして外に出てみたら、大きな雪の玉が4つ並んでいた。

こどもは嬉しそうに、「イスを作ったんだよ。ここに座って、写真を撮ったよ。」とニッコリ笑って言う。

そうだね、雪ダルマもいいけど本当にすてきなイスが出来たね。

サウスバウンド   奥田英朗  角川書店  小説

  ★★★☆☆

両親が活動家出身の上原家は事件に巻き込まれ、家族そろって東京から父の出身地沖縄に移住する。体制嫌いの父親の方針で学校へいかせてもらえなかったり、妙な運動に巻き込まれたりしながらも、子供たちはおおらかな島の人たちと触れ合って、自分達の考えをもち、たくましく育っていく。

この話がいいと思うのは、活動家に肩入れせず、かといって人間性を全て否定するでもなく、批判するところは批判しながらも、そう生きざるを得ない人間をそのまま描いているところだと思う。大人になりきれず理想ばかり追い求める、余りに極端な親の考えを全ては受け入れられないけれど、子供は親を愛しているからその生き方は受け入れているのだ。現実には大人でもなかなか出来ないことだけれど。

ゆるせないと思った人も出来事も、大抵のことは時間が癒してくれると最近思う。苦しくてどうしても背負いきれない大きな荷物は、思い切って時間に預けて忘れてしまおう。いつの日にかきっと、今ほど痛まない自分に気づく。

サウス・バウンド Book サウス・バウンド

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2008年2月 6日 (水)

六番目の小夜子

午前中の空いている電車に乗った。

高校生が停車駅から大勢乗って来る。

友達といるだけで楽しくて、嬉しくて、騒がしい年頃だ。

それなのにみんな一斉に携帯を開く。

同じ制服を着た同じような顔つきの子供たちが、同じ角度で下を向く。

無表情で口を半開きにして、無言のまま親指だけが動いている。

名刺くらいの小さな窓には何が映っているのだろう。

少しあごを上げて周りを見渡せば、素敵な出会いや発見が待っているかもしれないのに。

そんな素敵なことが起こるなんて、ありもしないと決めてかかって。

だけど、私にはいるのだ、電車の中で出会った人と結婚した妹が。

六番目の小夜子   恩田陸  新潮文庫  ファンタジー

  ★★★★☆

その高校にはいつからか生徒に受け継がれている伝説があった。その役割は前任者から選ばれた一人の三年生がつとめ、卒業式当日、在校生にこっそり引き継がれるという。それはサヨコと呼ばれ、代々のサヨコしか当人がわからない。そして今年は六番目のサヨコの年だった・・・。

文句なしに面白かった。サヨコを巡る不可解な出来事にミステリーなのかと思いきや、青春小説としても十分楽しめる。この作者が描く高校生は魅力的で、思わず自分の高校時代に思いを馳せてしまう。もちろん、人に誇れるような素晴らしいものではないけれど、振り返ってみると、私にだって切なくなるような純粋さや輝きが与えられていたと気づくのだ。

いつも思うのだけれど、文学賞というのは正当に作品に与えられていない気がする。作者の最高傑作というよりは、ある程度作者の実力が安定してからようやく選者が安心して与える、というような。『夜のピクニック』もよかったけれど、この作品のほうが断然面白いよなぁ、やっぱり。

『図書館の海』に収められている続編もよかった。

六番目の小夜子 六番目の小夜子

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図書室の海 (新潮文庫) Book 図書室の海 (新潮文庫)

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