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2007年11月22日 (木)

ロンググッドバイ

夕暮れ時を過ぎて、低い声の男性が歌うウィスキーのCMソングが流れると、子供の頃、もう大人の時間だと思ったものだ。

CMは、その音楽にのせて風景が映し出されていくものだったと思うのだが、それが郷愁をさそってやたらと心細かったことを思い出す。なんだか自分が独りきりで置いていかれるような、そんな薄ら寒い不安。

時が経ち、氷と沢山の水で薄めたウィスキーを初めて口にしたとき、大人になったことが嬉しかった。

けれども知ってしまった、大人もやはり心細いのだということを。だからほんの少しのぬくもりを求めてお酒を飲むのだということも。

ロング・グッドバイ  レイモンド・チャンドラー 早川書房 ミステリ

  ★★★☆☆

酒に酔いつぶれたレノックスを助けたことがきっかけで、彼と友人となった私立探偵マーロウは事件に巻き込まれていく。大富豪のレノックスの妻は無残にも殺され、その後、レノックスも自殺したのだ。それは終わりではなく、始まりだった。

今風のスピーディーな作品と比べてしまうと、情景がとにかくたっぷり描かれていて、主人公の語り口が回りくどいが、この時代のハイソな空気を楽しむと思えば、マーロウの美学に基づいたキザ振りもいいのかもしれない。軽く酒を交わしただけで厚い友情を交わし、魅力的な女性には惑わされず、金銭にも左右されない。独り強い酒をあおり、理解されなくとも決して自分を曲げない。この時代のタフガイはかなりしんどそうだなぁ。

ロング・グッドバイ Book ロング・グッドバイ

著者:レイモンド・チャンドラー
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2007年11月14日 (水)

反自殺クラブ

柿が美味しい季節がやってきた。

ところが我が家では柿は少し問題なのである。

というのも、私は硬めの若い柿が好きで、りんごより少し軟らかいと思われるものをしゃりしゃりと食べるのが美味しいと思うのだが、おっとは熟した軟らかい柿が好きなのだ。

熟した柿を何度か試してみたのだけれど、熟したものは、同じ味なのに全く違う食べ物のように感じるから不思議だ。歯ごたえというのが、思っているより重要なのだ。

最近では固い柿を買ってきて二、三日置く。すると少し硬く少し軟らかい柿が出来上がる。

完璧に満足はできないけれども、不満にもならないものが誕生する。

些細なことでもこうやって歩み寄るのたいせつなのだ、と私は満足する。いつものようにおっとは気づいていないかもしれないけれど。

反自殺クラブ  石田衣良 文藝春秋 ミステリ 

  ★★★☆☆

池袋ウェストゲートパークⅤ。真島誠は池袋西口の果物屋を母と二人で切り盛りしながら、雑誌のコラムを書いている。彼なりのやり方で、街の、名もない人たちが巻き込まれたトラブルを解決しているのだ。

このシリーズは短編だけれど、その時その時のホットな問題が取り上げられていて、いつもながら考えさせられる。華やかな都会で生じる矛盾や、やりきれない問題を主人公が優しさをもって、合法的に、血を流すことなく解決していくところが読んでいて安心できる。

誠は決して報酬は受けとらず質素な生活を送りながらも、クラシック音楽を聴きながら、自分の美学に忠実に生きている。要領良く、損しないよう立ち回るのが出来る人間だと評価されがちなこの時代に、誠のやせがまんなキザぶりが一昔前の男という感じがして、本当にいい。

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク5 (文春文庫 い 47-9) Book 反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク5 (文春文庫 い 47-9)

著者:石田 衣良
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2007年11月 8日 (木)

みずうみ

父は体も大きく、豪快な人だった。

家族のことなどお構いなしに自由に生きて、怖いものなんてないような人だった。

そんな父にも一つだけ、苦手なものがあった。

苦手というより、恐れていたと言った方が正しいのかもしれない。

それを見かけただけで、大きな声を出して追いやろうとするし、高いところから見下げられると、身動きとれないほどなのだから。

身の毛もよだつという表現があるけれど、それがぴったりとくるそんな父の狼狽振りに、日頃彼を恐れていた私は胸がすくような思いがしたものだ。

父が帰らぬ人となった今、「猫」を見るたび、弱い父を懐かしく思い出す。

みずうみ   よしもとばなな  フォイル 小説

  ★★★☆☆

アパートの窓からいつも見ていた中島君は医学部の院生。もちあみを脇に挟みながら孤独に耐える彼と複雑な家庭に育った私は、出会うべくしてであったのかもしれない。彼と私の癒しの日々が始まった。

作者がずっと描いてきた問題がこの作品にも取り上げられていて、今もドコカにあるかもしれない怖さと哀しさが描かれている。よしもとさんらしい作品で、どんどんページが進んだ。

この小説は光景の描写というよりも、感情や思考がみっちりと描かれすぎていて、読み手が膨らませる余地がなく、なんだか息苦しかった。道草や周りの風景を楽しむ余裕がなく、目的地へと誘導されているような感じとでも言おうか。それが作者のねらいなのかもしれない。

みずうみ Book みずうみ

著者:よしもと ばなな
販売元:フォイル
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