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2007年9月21日 (金)

夜の公園

久しぶりに出掛けたその街は、変わらず奇抜な服装の人たちが多かった。

私はなんとなく居心地が悪く、目的地へと思わず早足になる。

すると前方から30代とおぼしき男女が、腕を組んでぴったりと体を寄せ合うようにしてやって来た。

二人は真顔で、お揃いの白いTシャツを着ている。

胸の辺りに大きな赤い文字が書いてあって、男性の方はLO、女性はVEだった。

二人は大切な『LOVE』を運んでいるかのように、神妙に私の横を通り過ぎていった。

夜の公園    川上弘美 中央公論新社  小説

  ★★★☆☆

リリは幸夫という申し分のない夫がいる、だけど、気づいてしまったのだ。もう夫を愛していないと。春名はリリの夫を愛している、だれよりも深く。けれども、何人かの男と付き合わずにはいられない。なんだかやるせない大人の恋物語。

この本を読みながら、他の作家さん(私はその人も大好きなのだけれど)の作品かと思ってしまうほど、文体もストーリーもいつもの作風と違っている。さすがと言おうかこの作品も楽しんで読めたけれど、ラストがあるべきところに落ち着いたような結末になってしまうのがやっぱり川上さんで、いつもはそこが好きなのだが、この作品の女性達のキャラクターだと、なんとなく腑に落ちない感じがしてしまう。

新境地だとは思うけれど、川上さんのファンとしてはなんだか寂しい気もする。それはあんまり望みすぎと言うものなのかなぁ。

夜の公園 Book 夜の公園

著者:川上 弘美
販売元:中央公論新社
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2007年9月14日 (金)

凍りついた香り

バイパスを走る車の助手席からぼんやりと景色を眺める。

交差点で車が停まり、小さな芝生に立つ看板に気づく。

それは横長の道路標識のような形の看板を縦にいくつも貼ってあるもので、その界隈の飲食店の名前がずらりと並んでいる。

スナックや居酒屋というようなお酒の出る店ばかりだなぁと思って見ていると、下の方に控えめに、『男の心をかきみだす店』というのがあった。

一体どんな店なのだろう?絶世の美女がいるのか。それとも素晴らしいお酒?いやいやそんなことではなくて、と色々な想像が頭の中を駆け巡る。

全くどうして、女の心もかきみだす店らしい。

凍りついた香り    小川洋子  幻冬舎  小説

  ★★★☆☆

一緒に暮らし始めて一周年の記念にと弘之が自作の香水を贈ってくれた翌日、彼は仕事場の調香室で自殺した。弘之の死後初めて、彼が弟と連絡をとっていたことや意外な過去を知る。彼の真実を知りたくて、私はプラハへとやって来た。

恋人に前触れもなく去られ、次々に知らされる恋人のいくつかの顔。浮気をしていたわけでないし、社会的に問題のある行動もしていないけれど、自分には知らされなかった彼の姿を後になって突きつけられるのはどんなに辛いことだろう。誰よりも近くにいるはずなのに埋められない大きな溝。だけども自分自身を考えてみても、一緒に暮らしているからといって、相手の行動はほとんど知らないし、過去を詳しく知ろうとしたこともない。案外身近なことなのかもしれない。

凍りついた香り (幻冬舎文庫) Book 凍りついた香り (幻冬舎文庫)

著者:小川 洋子
販売元:幻冬舎
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2007年9月 2日 (日)

私の夫はマサイ戦士

日経新聞夕刊の長谷川櫂さんによる「プロムナード」を興味深く読んだ。

イタリア料理のプッタネスカというのは「娼婦風」という意味の、常備野菜などで手軽に作れる料理で、日本でいうなら「おふくろの味」とでも言えるものなのだそうだ。なつかしく、つい食べたくなる料理。

加えて言うなら、世界を探してみても事あるごとに恋しく思う料理に、「愛妻の味」とか「愛妻風」というものはないのだと。

それでは妻の立場が全く無いではないか。

ここはおちついて、オトコのタチバに立って考えてみる。

妻や子供の前ではやはりプライドがある。そうそう甘えてはいられない、それに食事の文句なんて言ったら、妻が機嫌を損ねて美味しく食べられないじゃないか。

その点、母ならば我儘はゆるされるし甘えも出来る。

客の立場ならなお更強い。よくわからないけど、妻に見せない顔も見せられるのだろう。

そう考えると妻ってなんだかつまらない。

つまらないから、つま、っていうのかしらん。

私の夫はマサイ戦士   永松真紀  新潮社  手記

  ★★★★☆

筆者はナイロビに在住する日本人向けの添乗員で、マサイ戦士の夫が住むケニア西部のエナイボルクルム村とを行き来しながら生活している。

ケニア人からも差別をもって見られるマサイ族の男性の元に、それも第二婦人として嫁いだ彼女の生活はいかなるものか。

マサイ族といえば、電気ガス水道などのライフラインはもちろんなく、家も自然界の材料で妻が作る。牛を飼い、時には狩をする生活、そんな印象しかなかった。

しかしこの本を読んでみて、マサイ族が極めて民主的で合理的な考え方をし、実行している人たちなのだと知った。変化を受け止め、譲歩できるところは譲る。ある意味では文化的生活を送っている都会の人たちより、ずっと文化的なのだ。

永松さんの行動力もバツグンなのだけれど、彼女をとりまく人たちも面白い。

世界は広く、知らないことがまだまだ本当に多いのだと実感した一冊。

私の夫はマサイ戦士 Book 私の夫はマサイ戦士

著者:永松 真紀
販売元:新潮社
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