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2007年5月30日 (水)

すべての雲は銀の・・・

若くて悩みが多かった頃、利己的な自分を恥じては、歳を重ねたらどんなにか心が広くなり、寛容で、優しい人間になれるのだろうかと思っていた。

確かに、経験を経て初めて理解できるようになった人の痛みや喜びもあり、色々な人をゆるせるようになった。

けれど、過ごしてきた年月の分だけ固まってしまった価値観や、どうしても触れられたくない傷に関しては、なんだか以前の方がずっと心の許容量が多かったように思うのだ。

あの頃の私が十分大人だと感じていた年齢になっても、まだまだ未熟な自分がいる。

すべての雲は銀の・・・  村山由佳 講談社 小説

  ★★★★☆

兄に恋人をとられた祐介を心配した友達の紹介で、彼は長野上田の宿「かむなび」でアルバイトすることになる。

自然溢れる山の中での個性豊かな人々との生活が描かれているのだけれど、祐介だけがみんなから影響を受けるのではなく、上田の地元の人たちも彼から影響を受けていく。説教くさくなく人と人とのつながりのあったかさが書かれている。ともすれば、重く暗く描きそうな登場人物たちの過去をさらりと書いてあるのもいい。時間が癒してくれるもの、変えられないもの、色々あるけれど、それでも人は生きていくのだから。

表題はEvery cloud has a silver lining(どんな雲も裏は銀色に光っている)からとったらしい。どんなつらい時にも、必ず素晴らしいことがある。しみじみそう思う。

すべての雲は銀の… Book すべての雲は銀の…

著者:村山 由佳
販売元:講談社
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2007年5月25日 (金)

となり町戦争

久しぶりに母に会う。

また少し年老いているのに少し寂しい気持ちになる。

顔のしわは笑っていればなんとなくいい感じで気にならないのだけれど、手の甲のぽつぽつとできていたいくつかのしみに軽いショックを覚えた。

たまにしか会えないからなのか不思議なもので、自分の寄る年波が気になる年頃になってきているのに、母のイメージはいつまでたっても子供の頃「おかあさん」と甘えていた頃のものなのだ。

白い手をしてぽっちゃりとしていた母は、今は少し痩せて小さくなったけれどやっぱり幼い頃と同じ「おかあさん」なのだ。

となり町戦争    三崎亜記 集英社 小説

  ★★★☆☆

舞坂町に住む僕は、ある日町の広報紙の小さな記事でとなり町との戦争が始まることを知る。役所から呼び出しを受けたぼくは、職員の香西さんと分室業務に携わることになる・・・。

写実的なようでありながら、決して現実ではありえない物語。戦争といっても生々しさはなく、しかしながら残酷な結果が描かれていたりして、不思議な感じだった。登場人物の当然あるべき苦しみも軽い感じで、それはねらっているのかもしれないけれど、なんとなくものたりないような。もっともっと面白い作品を書きそうな、そんな期待がもてる作家さんだなぁと思った。

となり町戦争 Book となり町戦争

著者:三崎 亜記
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2007年5月16日 (水)

ミシン

日々の暮らしに追われて、自分が好きだったものさえ忘れてしまうことがある。

古い友人が「手先が器用だった」と私のことを説明してくれて、かつて洋裁に熱中していたことをはたと思い出した。

そういえば、子供の産着も自分で作ったのだった。

お腹の中の命が少し怖くて、その何倍も嬉しくて、せっせとミシンに向かったものだった。

深夜近くにならないと多忙なおっとが帰宅しないことをいいことに、何時間も一心不乱にベビー服やらなんやらを作ったものだった。

また、なにか縫ってみよう。今度は自分のために。

ミシン     嶽本野ばら  小学館  小説

  ★★★☆☆

パンクバンドのボーカル・ミシンを愛した私は、彼女と同じブランドの衣服に身を包み、彼女と愛し合えるよう、彼女の恋人が消滅するようひたすら願掛けをする。そして私の究極の愛の形は・・・。

この作者の作品はロリータの衣服に身を包み、時代に合わないのだと古いものに執着し、周りの人々を疎ましく軽蔑している主人公ばかりで、どうしても好きになれないのに読んでしまう。物にどうしてそんなにもこだわるのかわからなかったけれど、この作品を読んでみて、彼らにとっては単なるファッションではなくて、アイデンティティといおうか、それなくしては生きていかれないほどの存在意義なのだ。形にならない絶望と苦しみ、豊かな時代の迷える魂なのだろうか。・・・・・なんだか贅沢すぎる。

ミシン Book ミシン

著者:嶽本 野ばら
販売元:小学館
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2007年5月 9日 (水)

タペストリーホワイト

気温が上がってところてんが美味しい季節になってきた。

ひんやり冷たくてつるつるとしたのどごし。

そしてあのたれの味。

ちゅるちゅるとススルと、それは幸せな気分になる。

故郷を離れ一人で暮らすようになって、スーパーでところてんを見つけた時はうれしくて早速買い求め、わくわくして食べることにした。

ところが、割り箸を握り締めて口に入れた途端、派手にむせてしまった。

ところてんの味が思っていたのとは全く違っていたからだ。

私が食べたかったのは、あまずっぱいおやつの味のところてんだった。

一生懸命探してみたけれど、甘いところてんはこの辺りでは見つけられない。

今では、甘くないところてんも美味しいと思うけれど、やっぱりあの甘いところてんの味が恋しい。

タペストリーホワイト  大崎善生 文藝春秋 小説

  ★★★★☆

1970年代の初旬、学生運動の内ゲバに巻き込まれ下宿先で撲殺された姉の死の意味を知りたくて、洋子は同じ大学へ入学し姉と同じ街に住む。学生運動で荒れた学校で、数年後に学ばねばならなかった若者達、運動の犠牲者の遺族達の思いと人生は・・・。

今まで私が目にしてきた本、語られた言葉などは全て学生運動の当事者達が自分達を正当化する、もしくは美化したものだったが、この作品はそれらの人々が歩いた後をいやおうなしに歩かされた、所謂「祭りの後」を過ごしてきた人間の偽らざる本音が綴られていて本当に興味深かった。主人公は学生運動を” 思想を盾にしたサークル活動“と言い放ち、それに組した人間を” ブルジョア的特権意識を振りかざしながら、解放も革命も関係なく、60年から80年までの間、あらゆる学生や労働者達の自由や権利をくいつぶしながら、際限のないから騒ぎを続けた“と綴っている。

私は記録でしかこの時代を知らないので、その是非を語る権利は持ち合わせていないが、成田の小学生たちが手に手に竹やりを持って空港建設を反対しているニュースを見て心からびっくりしたことや、私の中学時代、テンチャンと繰り返すばかりで授業を進めない教師が、駅前で別人のように生き生きと「職場待遇改善」と叫んでいたこととかを思い出した。

タペストリーホワイト Book タペストリーホワイト

著者:大崎 善生
販売元:文藝春秋
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