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2007年3月24日 (土)

数学的にありえない

卒業の季節になると、色とりどりの服装の人たちがそれぞれの顔をして行過ぎる。

嬉しさや、一抹の寂しさ、あるいは晴れがましさだったりと。

少し肌寒く冷たい風が残るこの季節だからこそ、門出が似合う。

私もあんな顔をして、あんな風に歩いたのだろうか。

何を心に描いて。

どんな希望を抱いて。

数学的にありえない  アダム・ファウアー  文藝春秋 ミステリ

  ★★★★☆

癲癇で職を失い、ポーカーで破産したケインは借金取りだけでなく、国家安全保障局に追われる羽目になる。CIA工作員のナヴァが彼の前に現れ一緒に行動するが、彼女は敵なのか見方なのか。なぞの科学者の意図するところは何なのか。

謎解きをしながら逃走していく話の筋自体はシンプルだが、それよりも、確率論や量子物理学が非常にわかりやすく書かれてあり、大層興味深かった。謎解きに東洋哲学が出てくるところ、東洋人としてはしっくりくるが、アメリカ人によって書かれているところが面白かった。大学の講義よりずっとわかりやすいので、確率や量子物理学の入り口でにつまづいている人は一読あれ。

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2007年3月14日 (水)

ラビリンス

先日よくテレビで見る女優さんが、一日署長にやってきた警察署は大通りに面している。

その警察署前の広い歩道を知人と歩いていると、50代くらいの女性が口を大きく開けている。

何かあったのかと思ったら、たぬきがのんびりと女性の横を歩いている。

ここも結構な都会である。

思わず駆け寄ると、たぬきは悠然とした足取りで車道を渡り、潅木が生い茂る中央分離帯へと歩いていく。

どう呼びかけたものかわからなかったので、「あ!」と言ったら、たぬきは妙に艶めかしい腰つきで振り返り、ぐるぐるとした目で私達をちらりと見、潅木の中に消えて言った。

口を開けていた女性がようやく声を出した。

「あれって、たぬきですよね。」

知人が「ええ、よくいますよね。」と答えたので、私は黙って頷いた。

ラビリンス  ケイト・モス   ソフトバンククリエイティブ  ミステリ

  ★★★★☆

20057月、アリスは南仏で遺跡の発掘作業中、洞窟の奥に男女の骸骨と指輪、壁に書かれた迷路を発見する。それを発端にアリスの周りが騒がしくなっていく。

時に12097月十字軍はフランス南部の山の砦を陥落した。過去に導かれるようにして、聖杯伝説が明らかにされていく。

この物語で明かされる聖杯の謎は、それを巡る確執や争いが信徒でなくとも理解できる内容だった。そして人々の弱さや醜さ、恋物語が描かれていて物語として楽しめた。昨年の夏ブームになった聖杯伝説の小説は謎解きとウンチク本のようだったので、女性はきっとこちらの方が楽しめると思う。

ラビリンス 上 Book ラビリンス 上

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2007年3月12日 (月)

赤い長靴

ミモザの花が満開だ。

黄色の小さな花が枝に沿って鈴なりに咲いている。

風に揺れている鮮やかなその色が不意に胸を打つ。

小さく弾けるように心を打つ。

陽がなくとも光を受けているようなその花を見上げながら、遠い昔にもこんな風景を見たことがあるような気がした。

赤い長靴   江國香織 文藝春秋 小説

  ★★★☆☆

日和子は逍三と結婚して十年になる。子供はないけれども二人にはなんの不都合もないし、愛情もある、何不自由ない生活が流れていく。けれど、である。幸せの中の隙みたいなものだろうか、不満とも言えないようなかすかな塵のような心の動きが書かれていて、やはり上手いなぁと思ってしまった。

 “一緒にいないときの方が彼のことが好きみたいだ。”

結婚生活を送っている中で、こういう類のことを思ったことのある人は多いのではないだろうか。嫌いになったとか、愛情が薄くなったとかいうことではなく。

私はおっとと一緒にいる時の方が愛を感じます、もちろん。

赤い長靴 Book 赤い長靴

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2007年3月 2日 (金)

ハミザベス

自転車に乗ると、周りの景色が良く見える。

歩いている時よりも速度が少し速いのがいいのか、目線が変わるからなのか、普段よりきれいな景色が広がる。

自転車に乗って近くの庭があるお宅の側を通り過ぎると、大きな真紅の寒椿が花の盛りだった。

深緑のりっばな葉に負けないように、凛と咲いている。

冬に花をつける椿はなんて素敵なんだろうと思ってふと見ると、同じ庭の桜もすでに七分咲きだ。

ほんの少し混乱したけれど、ここは暖かい冬の贈り物だと思おう。

ハミザベス  栗田有起 集英社 小説

  ★★★☆☆

とっくに死んだはずの父が亡くなり、まちるにマンションを残したという。そして父が最後に暮らしたという女性にハムスターを託される・・・。

このすばる賞をとった表題の話も面白かったが、もう一つの『豆姉妹』の方が楽しめた。看護婦だった姉がある日突然SMの女王様になる話で、主人公の姉妹は複雑な家庭環境にありながらも、のんびり明るく物語が展開していく。二作とも、難しい家庭の話で、実際にはなさそうな奇天烈な展開なのだけれど、そんなことより話の空気感といおうか、久しぶりにこの人好きだなぁという小説家に出会った。なんだか嬉しい。

ハミザベス Book ハミザベス

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