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2007年2月26日 (月)

間宮兄弟

おっとは早起きだ。

本当に感心するのだけれど、どんなに遅く帰ろうとも、どんなに深酒をしても、同じ時間にきちんと目を覚ます。ほとんどの場合、目覚ましより早く。

そして、恐ろしく長く時間をかけてひげをそるのだ。儀式のように、神妙に。

ブゥーン、ブゥーンという髭剃り器の低い音がお経のように響く。

結婚したばかりの頃は、やたら長いそのひげそりの時間について、いささか驚きもしたし、文句も言ってみた。

おっとはただ聞き流すだけで改めようとはしなかった。

いつしかあれほど耳障りだったおっとのひげそりの音が聞こえてくると、安心してうつらうつらし、その音が止まると不思議に目が覚め、さぁ一日のはじまりだ、と思うのだ。

間宮兄弟    江國香織 小学館 小説

  ★★★☆☆

徹信と明信は二人で暮らす30歳過ぎの独身兄弟。徹信がホームパーティーを開いたことから、直美、その妹の夕美と彼氏、徹信の同僚も加わった人の輪が出来ていく。兄の先輩の妻に思いを寄せる徹信と、大学生の直美への思いを抱く明信の恋のゆくえは・・・・。

この作者にしてはめずらしく男性が主人公で、ホームドラマのような小説。いつもの癖の強い女っぽい女性がほとんど出てこない何と言おうか、「江國風な作品」ではないけれど、朝の連ドラ感覚で楽しめた。この人の文体の独特の空気感が損なわれてしまうので、絶対映画化して欲しくないと常々思っているのだけれど、この作品に限ってはちょっと見てみたい。

間宮兄弟 Book 間宮兄弟

著者:江國 香織
販売元:小学館
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2007年2月21日 (水)

ニッポニアニッポン

学校を出た頃、焦燥感にかられて仕方が無かった。

何を焦っているのか、何が不安なのかよくわからなかった。

将来への不安、自分の能力へのあきらめ、そして不公平な社会への不満、そんなものにも思えたし、そうでないような気もした。

その頃、そう母に話すと軽く笑って、「それは若いからよ」と答えた。

いくつかの季節がめぐって、あの頃の母の年齢になろうとする私は、あの頃のように強くは無いものの、今でもなお、おぼろげな焦りを感じている。

ニッポニアニッポン  阿部和重 新潮社 小説

  ★★★☆☆

鴇谷春夫は17歳。名前に鴇(とき)という字があることから、トキと自分を同化させ、特別な存在であると思い込む。片思いの相手を執拗に追い回し、故郷を追われた彼はネットと妄想の世界にはまりこんでいく。 

あまりにリアルで、形を少し変えれば実際にいつ起こってもおかしくない、と恐ろしくなった。抑えることも、あきらめることも、折り合いをつけることも知らず、ちやほやされてきただけの大きな子供。感謝は知らないのに不満と自尊心ばかりの存在。恵まれた境遇がなぜか不幸な人間を作っていく。なんだか空しい読後感。この作者の切り口はいつも激しくて、もう少し救いがほしいなぁと思ってしまう。

私は思う、やっぱり人はみんな誰かのお役に立つために生まれてきたんだよ、その人にしかできない方法で。

ニッポニアニッポン Book ニッポニアニッポン

著者:阿部 和重
販売元:新潮社
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2007年2月19日 (月)

アンクルトムズ・ケビンの幽霊

オランダ語で「ネー」と言うと「NO」の意味。

韓国語では「ネー」は「YES」の意味になる。

同じ音の響きなのに、まったく逆の意味になる。

心がすれ違う時、どうしても心が伝わらない時、言葉を尽くしてもどうしても伝わらない時、きっと相手は違う意味でその言葉を聴いているんだろう。

けれど、世界中どこでも、人はみんな同じように恋をして歌を歌い、食事をし、眠る。

今日も、そしてこれからも。

アンクルトムズ・ケビンの幽霊  池永陽 角川書店 小説

  ★★★★☆

西原は鋳物工場の職人で、同じ職場の不法残留タイ人達を気にかけ面倒を見る。彼らと彼らのアパートに転がり込んだ在日朝鮮人の女性と触れ合ううちに、心の奥底にしまいこんでいた苦い初恋を思い出す。そして西原がとった行動とは・・。

日本人にとっては恥ずべき重い内容の小説。ここに出てくる人たちは根からの悪人はおらず、その行動には善くも悪くも理由があり、決して許されないとわかっていながらその選択をしている。主人公の西原も善人だが、八方美人で態度が煮えきらず後悔ばかりしている。それに引き換え、虐げられている人たちがたくましく生き抜いていく様が強く、哀しかった。最も罪深いのは、無自覚に非人道的な行動をすることなのだと強く思った。全ての人々が、少しの善意を実行する勇気が持てたなら、もっと良い世の中になるのだと信じたい。

アンクルトムズ・ケビンの幽霊 Book アンクルトムズ・ケビンの幽霊

著者:池永 陽
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2007年2月13日 (火)

ブレイブストーリー

博物館に行く。

レプリカの骨で作られた実物大の恐竜の数々。

首長竜は首だけではなく尾も随分と長く、曲がるようにして展示してある。

下からも骨が見えるようにと、レバーの上にまたがるように恐竜の模型が載せてあって、それがぐるぐる回るので、まるで串刺しにした恐竜の丸焼きを作っているようなものもあり意外と楽しめた。

なかでもティラノサウルスは人気の恐竜で、全身のものだけでなく、パーツ別の骨も展示してあった。

なんとなく眺めていたら、側で見ていた大学生くらいのカップルの男性の方が突然大きな声を出した。

「うそだろ!・・・・ティラノってこんなに顔が細いのかよ!?」

確かにティラノサウルスはりっぱな馬面だった。

ブレイブ・ストーリー  宮部みゆき 角川書店 SF

  ★★★★★

ワタルは小学5年生。ある日突然お父さんは愛人の元へ出て行った。僕達の生活を取り戻すため、悲しんでいるお母さんを救うため、願いを叶えてくれるという女神様に会うべく幻界へと旅立つ。僕は目的を果たせるのか。そして旅に誘ってくれたミツルと僕の運命は? 

昨年アニメ化された子供向けのストーリーなのに、宮部さんの文章力の賜物で恥ずかしいくらい何度か涙した。大人たちの勝手な言い分やそれに振り回される子供の心、旅の最後の悲しい別れにまるでワタルになったように悲しく同調してしまった。熱く、そして正しいことが正面きって書かれているのに、素直に感動してしまう。なんだか、心がすっきり洗い流されたようだった。学生の頃、新書のたぐいの小難しい本を沢山読んだけれども、今になって思うのは、心が前向きになれるもの以外はアクセサリーのような教養にはなっても、ぐちゃぐちゃ捏ねた学問は生きていくためにはほどんど役にたたない。エンターテイメントと馬鹿にするなかれ、中学生くらいの人にこそ読んで欲しい本。ボリュームはあるけれどハリーポッターより面白いよ!

ブレイブ・ストーリー (上) Book ブレイブ・ストーリー (上)

著者:宮部 みゆき
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ブレイブ・ストーリー (中) Book ブレイブ・ストーリー (中)

著者:宮部 みゆき
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ブレイブ・ストーリー (下) Book ブレイブ・ストーリー (下)

著者:宮部 みゆき
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2007年2月 9日 (金)

今夜誰のとなりで眠る

私の自慢は何を隠そう視力がバツグンに良い事だ。

なんと言っても、保健所の健康診断で両目とも1.5ということがわかり、保健婦さんが二人並んで拍手をしてくれたくらいなのだから。

ぽかぽか陽気が続くこの頃、年季の入った花粉症の私は眼鏡にマスクが欠かせない。

けれど、暖かいからか、鼻息がすごいのか、すぐに眼鏡が曇って目の前が白くぼんやりとしてくる。

近眼の人はこんな風に見えるのかなぁと思い付いたら、なんだか違う世界を覗けたようでほんのちょっぴり楽しい気分になった。

今夜誰のとなりで眠る  唯川恵  集英社 小説

  ★★★☆☆

事故で秋生が突然死んだ。彼に関わった女性たちがそれをきっかけに少しずつ変わっていく・・・。

夫から逃げ出した女性、未婚の母、突然恋人に去られた女性、不倫に走る女性・・・心に隙間がある女性達が次々に登場してくるが、きちんと一人一人が描かれているせいか、誰に肩入れすることも無くすんなり読めた。この話は不幸な女性ばかり登場するけれど、そんなに空虚な人ばかりなのか?女は決して満たされないのだろうか?そんなことはないと思うんだけど・・・だけど、私は寝るときは一人がいい、いびきなんかに悩まされずにぐっすり寝たいもんね!

今夜誰のとなりで眠る Book 今夜誰のとなりで眠る

著者:唯川 恵
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2007年2月 5日 (月)

ニューヨーク地下共和国

参観日の教室はこども達の作品が沢山飾られている。

中でも、こどもたちが思い思いに文章と絵を書いたハウツー本が可愛らしかった。

画用紙で本を作り、表紙を開くと目次や丁寧なイラストが色鉛筆で書かれている。

『一輪車に上手く乗れる本』『上手にクッキーが焼ける本』『サッカーのシュートがきまる本』『上手におこられる本』・・・・。

桃色の表紙で目を引いたのは『バレンタインにおもいが伝わる方法』

早速手にとってみると、

 ①好きな人はだれだか思い出す!

と書いてあった。

ニューヨーク地下共和国  梁石日  講談社 小説

  ★★☆☆☆

9.11後のニューヨークではテロが収束するどころか益々混沌としていき、市民運動も世論も役に立たない。一部の権力者に世界は牛耳られているのだろうか。

連載中は仕方が無いだろうが、重複や説明が多く、かなりボリュームがあるだけに読みずらかった。その部分が整理されていれば、ずっと面白い本になっていただろうと思えるところが本当に残念。主人公の魅力がくどいほど強調されているにも関らず、彼が恋に落ちる女性は肉体的魅力の他はなんともお粗末。作者の女性観かしらん?

ニューヨーク地下共和国(上) Book ニューヨーク地下共和国(上)

著者:梁 石日
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ニューヨーク地下共和国(下) Book ニューヨーク地下共和国(下)

著者:梁 石日
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