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2006年11月27日 (月)

いま、会いにゆきます

帰宅すると留守番電話のランプが光っている。

携帯を持つようになってからは滅多に無いことだったので、誰かしらと思いながらメッセージを聞く。

「警察署です。」

驚いてしまってドキドキしながら聞いていると、

「お宅のこどもさんが十円を拾って届けてくれましたので、書類を作成しました。後ほど持ち帰らせますので、褒めてあげてください。」

思わず笑ってしまったけれど、なんだか心がほわーっとなる。

忙しいのに面倒がらず、こどもの心を受け止めてくださってありがとう。

本当にありがとう。

いま、会いにゆきます  市川拓司 小学館 小説 

  ★★★★☆

澪が死んで一年経ったある雨の日、夫と子供のところへ戻ってくる。けれど彼女は全く記憶が無かった・・・。社会に適応できない障害を抱える巧と、母の死は自分のせいだと小さな胸を痛めながらも、父親の病と向かい合って暮らす小学一年生の祐司。私と一緒で幸せなのかとお互いに問い、それだけで幸せだと思える夫婦。そんな風にお互いの幸せを望むことがいつまでも出来たなら最高なのに、いつの間にか自分の気持ちが優先されていく。・・・反省しきり。

昨年の話題作だけに楽しんで読むことが出来たけれど、この作家も題名が少し面映い。もっとシンプルな題名の方が断然いいと思うんだけど・・。最近の男性作家の傾向なのか、時流なのか。

いま、会いにゆきます Book いま、会いにゆきます

著者:市川 拓司
販売元:小学館
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2006年11月22日 (水)

窓の灯

週に一度くらい通る道に飲食店がある。

店の前に風が吹くと回転する看板が立っている。

かなり大きな字で、そして、かなり下手くそな字で「う ま い」と書いてある。

子供のいたずら書きのような「う ま い」がくるくると回っている。

通るたびに、くるくる、くるくると何度も。

この店はうまいのか、うまくないのか、気になりながらやっぱり店に入れずにいる。

窓の灯  青山七恵 河出書房新社 小説

  ★★★☆☆

ひょんなことからミカド姉さんのいる店で働くことになった私。店の二階に住むミカド姉さんのとなりの部屋まで与えられたが、自由奔放なミカド姉さんや向かいに住む男性の生活を、そっとのぞき見ることがやめられなくなっていく。他人のプライベートが気になるのは誰でもある気持ちで、日本人は嫌悪感が強いけれど、古い映画の「裏窓」などは当然の権利のように堂々と他人の家の窓を見ている。筆者が若い女性のせいか、のぞきというより、まるでネットの画面でも見ているように話が進んでいく。自分自身を見られるのは極端に警戒し、いくら人と深く付き合うのを避けていても、人を求めてしまうのは人間の性(さが)なのか。

窓の灯 Book 窓の灯

著者:青山 七恵
販売元:河出書房新社
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2006年11月20日 (月)

カイマナヒラの家

鯨がやって来る季節のハワイはちょっと楽しい。

朝でも太陽の眩しい時間でも、夕暮れ時でも私は海をひたすら眺める。

食事は絶対海辺でなくては。そぞろ歩きも海辺でなくては。

買い物よりも食事よりもおしゃべりよりも鯨なのだ。

それは私だけに限ったことではないようで、鯨が時折上げるしゅっうという水しぶきだけで、あたりの人たちは歓声を上げる。

鯨の体は全く見えていないのに。

何時間も海を見ていてそこにいた人たちが見られたものは、鯨の尾っぽだけだった。

だけど、夕日の中はこの上なく幸せそうな人たちばかりになる。

カイマナヒラの家  池澤夏樹 写真・芝田満之 

集英社  小説
  ★★★★☆
ハワイのカイマナヒラ(ダイアモンドヘッド)の麓のアレグザンダー邸宅に住む、ロビン、サム、ジェニーと僕の日々。サーフィンと海とゆったりした時間の流れに少しずつ癒される人たち。結果を出すわけでもなく、何かに追い立てられるわけでもない、ただ日々を生きていくということの有難さ。美しいハワイの写真の数々に爽快感の残る一冊。

カイマナヒラの家 Book カイマナヒラの家

著者:芝田 満之,池沢 夏樹
販売元:集英社
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2006年11月13日 (月)

うつくしい子ども

デパ地下が苦手だ。

あの色々な食べ物の匂いが入り混じった独特の空気やら、多くの店員さんがしている三角巾やらが。

ざわめきや、他の売り場に比べてなんとなく黄色い感じの照明も。

お惣菜やお菓子を買うつもりでエスカレーターを降りて行くのに、ぐるぐるぐるぐると歩き回った挙句、どうしたいのかわからなくなってしまい、結局手ぶらで帰ることになる。

行列の出来る売り場に果敢に出かけて、沢山の袋をぶらさげている人を見ると、いつか私も、と小さな野望を抱く。

うつくしい子ども  石田衣良 文藝春秋 ミステリ

  ★★★★☆

神戸の少年A事件がモデルの小説。事件後、加害者の兄が事件の真相を探っていく。報道や、正義感からくる怒りや、それに便乗した悪意によって加害者の家族も犯人と同等かそれ以上の制裁を受けていく様子が、少年の視点で描かれていく。被害者の気持ちにはほとんど触れられておらず、色々な専門家が当時繰り広げた分析などが必ずしも的を得ていないという立場から書かれていて、作者は勇気があるなぁと感心してしまう。多感な年頃の少年や少女のいい所も悪いところもうまく書かれていて、あくまでフィクションなのだけれど、こういうこともありえるのではと思わせる結末。

うつくしい子ども Book うつくしい子ども

著者:石田 衣良
販売元:文藝春秋
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2006年11月 9日 (木)

もしも私が、そこにいるならば

こどもが宿題をしている。

『ひらがなのにているじを れんしゅうしましょう。』というプリントだ。

「わ」と「れ」と「ね」を練習するらしい。

プリントを覗くと、枠からはみ出そうな大きな字で全て「ね」と書いている。

思わず、「全部『ね』を書く訳じゃないんだよ。」と言うと

にっこり笑ってきっぱりと言った。

「だって~『ね』が得意なんだもん!」

もしも私が、そこにいるならば  

片山恭一 小学館 小説

  ★★★☆☆

短編集。どれも病院が深く関わってくる。その為どうしても作品のトーンが暗いけれど、最後に少し希望が見えて終わるので気持ちよく読みきれた。母親の死後、娘が母のささやかな過去の恋を知るという表題の作品より、障害を抱えた子を持つ教師の話が心に残った。全身で子を受け止めて生きていける母親と違って、逃げるわけにも行かず、正面から抱え込むわけにも行かない父親の心。生真面目な男の葛藤がさらりとした文体で書かれていて心に残る。子とのきずなを感じる場面も淡々としているがかえってそれがよかった。この人の作品は、いつもタイトルが何と言ったらいいのか、面映い感じがするのだけれど、作風みたいにさらりとしたタイトルだったらもっといいのになと思う。

もしも私が、そこにいるならば Book もしも私が、そこにいるならば

著者:片山 恭一
販売元:小学館
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2006年11月 6日 (月)

またたび

こどもは色々なものをプレゼントしてくれる。

よちよち歩きの頃から、虫食いのどんぐりや、土のついた葉っぱや、へんな虫やらを。

少し大きくなると、何と表現したらよいのかわからない作品を。

お出かけのとき必ずしてね、とおもちゃのブレスレットをうやうやしく。

最近では上下巻あるハリーポッターシリーズを借りてきてくれる、下巻だけ。

もちろん嬉しいけれど、少しがっかりした顔もしてしまい、深く反省する。

母が大喜びしてくれるのを想像して、小さな手を伸ばしてくれるのに。それに応えられない稚拙さを。

そしてこどもを抱きしめる。

またたび   伊藤比呂美 集英社 エッセイ

  ★★★☆☆

2人の子供を連れてイギリス人と再婚し、アメリカ在住の筆者による食のエッセイ。現在の夫との間にも子供がいて、5人家族で明るく国際的な食卓なのだけれど、軽い調子で書かれている割には郷愁やら、悔恨やらが随所に感じられる。食に関することが書き連ねてあるはずなのに、世界中を飛び回り仕事も恋も結婚も子どもも手に入れた筆者の、未だみたされない不消化の人生記に感じられる。幸せとは形ではなく、心が満たされているかなのだなぁと思ってしまう。

またたび Book またたび

著者:伊藤 比呂美
販売元:集英社
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2006年11月 1日 (水)

思いわずらうことなく愉しく生きよ

コスモスが風に揺れている。

白や薄紅や濃紅がゆらゆらと。

誰かが種を蒔いて、大切に育てた儚げなコスモスの花たちが。

けれど、私の記憶の中のコスモスはそこら中に咲き乱れる野の花だ。

水を与えられるでもなく、丁寧に草を抜いてもらうでもない、

子供たちが手に手に握り締めて走り回った、ありふれているけれど萎れたりしない強い花だ。

思いわずらうことなく愉しく生きよ 

江國香織 光文社 小説 

  ★★★★☆

三姉妹の物語。長女は夫の暴力に苦しみ、結婚を否定し同棲にこだわる次女、家庭にあこがれながらも数多くの男性と関係を持たずにはいられない三女。どうしてこの人が書くと、こういう登場人物を奔放と感じないどころか、清潔感や透明感があって魅力的だと感じるのだろう。

長女とその夫が少しずつ壊れていく感じが悲しい。この二人の組み合わせでなければ、お互いに執着していなければ夫は豹変しなかったのか。それとも夫の性分なのか。優しかった夫と自分の選択を否定したくなくて、結婚にこだわる長女の意地がこれもまたふうわりと描かれていて、さすが。

思いわずらうことなく愉しく生きよ Book 思いわずらうことなく愉しく生きよ

著者:江國 香織
販売元:光文社
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