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2006年9月28日 (木)

シュガーポット

学生の頃アルバイトしていたファーストフードのお店には、シュガーポットが置いてあった。

15cmほどの高さのガラスのビンで、てっぺんに3cmほどの筒状の注ぎ口がついている。

傾けすぎると一度に大量の砂糖が出てしまい、使い勝手が悪かったせいか今はそのお店でも見かけない。

午後3時、決まって現れる女性がいた。きちんとお化粧をして必ず帽子を被っていた。

コーヒーだけを注文してカウンターに座る。

そしてシュガーポットを両手で抱え、砂糖をコーヒーに注ぐ、神妙な顔をして。

そのお店の決まりで、コーヒーはカップの上から2cmのところまで注ぐことになっていた。

その女性はざぁっと砂糖をそそぐ。ぴったり2cm。

コーヒーが溢れださんとするちょうどその時、ぴったりそそぐのを止める。

そうすると実に満足げな顔をして、丁寧にシュガーポットをもとの位置にもどす、はかったみたいに。

くるくるスプーンを掻き混ぜて、ようやく静かにコーヒーを飲み干すのだ。

その頃私は幼くて、彼女のことを密かに笑ったりしていた。

だけど、今では、彼女が変わらずあんな時間が持てていますようにと願っている。

袋小路の男    絲山秋子 講談社 小説

  ★★★★☆

日向子は高校時代に出会った小田切に10年以上片思いし続けている。友人以上には扱ってもらえない関係がひたすら続く。他の恋人を作ってみても、本当に愛する人は彼だけなのだ。

小説としては面白いが、こういう恋は私には出来ないなぁと思ってしまう。愛する人がいるのに、他の人にぬくもりを求めたり出来ないし、もっと正直に言えば、自分に関心があるかどうかもわからない、見返りの無い相手にそんなに長く尽くせない。女性は男性より俗物的で目に見える愛情を必要とするような気がする。こんな風にいろいろと思い巡らすことが出来るのは、作家の実力のお陰かしらん。

袋小路の男 Book 袋小路の男

著者:絲山 秋子
販売元:講談社
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2006年9月26日 (火)

ヨーロッパの空

私が住んでいるところの空は色が淡い。

晴天も、曇った日もそして夕暮れの空も。

最近の晴れた日は、水色の絵の具を水で薄めたような空に真っ白な雲が流れる。

それでも時々はっとするくらい青い空の日があって、空も気合が入ってるな、なんかいいことあるかもな、などと一人ごちる。

ずっと前に見たヨーロッパのたそがれ時の空の色は、深いふかい藍色だった。心の奥の何かがきゅうと締め付けられるような色だった。

遠い太鼓      村上春樹 講談社 紀行文

  ★★★★★

村上春樹が人気作家になる前から大好きだった。でも実をいうと「ノルウェーの森」からは長く、本当に長い間ハルキ離れをしていた。ところが海辺へ旅行に行くことになり、内容が重くなくてできるだけ分厚い本を探していたところ、この本を見つけてしまった。この本の冒頭に「遠い太鼓に誘われて私は長い旅にでた」というトルコの歌が載っている。・・・・そう私は遠い太鼓に誘われて長い旅からハルキの世界へ帰ってきた。ヨーロッパでの滞在記なのだが、彼の文章は音楽が一緒に流れているようだ。時に可笑しく、ときに哀しい。

遠い太鼓 Book 遠い太鼓

著者:村上 春樹
販売元:講談社
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2006年9月25日 (月)

アールヌーボー

公園を歩いているとふうわりといい香りがしてくる。

辺りを見回すと金木犀が咲いている。

オレンジ色の花をいっぱいにつけたその金木犀の木は大木で、まるで巨大なマッシュルームのような形をしている。

甘い香りにいい気分になって浮かれて歩く。マッシュルームというより、アールヌーボーのランプみたいな形だなどとと、とりとめのないことをつらつらと考える。

すると、バタバタ走っていたこどもが突然立ち止まった。

「なに?このへんなにおい!」

いまこの瞬間愛しているということ

二十八光年の希望(文庫改題)      辻仁成 集英社 小説

  ★★★☆☆

三ツ星獲得目前のフランス人シェフと、その弟子の日本女性シェフの恋物語。途中から面白くなりラストは印象的だった。ラブシーンも詩的に書かれていてロマンチック。最初はフランス料理やその世界についてのきどった説明がくどくどと続いてどうしたのかな?と思った。主人公の友人の料理評論家が書いているという形をとっているにしても、ちょっとくどい。それなのに肝心の、それぞれに相手がいたはずの二人が、特に、ハナが彼のことを好きになるくだりがさっと通り過ぎてしまい、拍子抜けした感じは否めない。ちょっとパリかぶれ?パリ移住以前の作風が戻ってきますように。

いまこの瞬間愛しているということ Book いまこの瞬間愛しているということ

著者:辻 仁成
販売元:集英社
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二十八光年の希望 Book 二十八光年の希望

著者:辻 仁成
販売元:集英社
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2006年9月22日 (金)

プーさん

ぐぅーん、と音をたてて真っ青なゴミ収集車が後ろからやってきた。

ふと見ると、車体の左後方のくぼみにプーさんのぬいぐるみが2体ちょこんと乗っている。

そのくぼみはぬいぐるみ2体がちょうど乗れる大きさで、本来なら作業中つかまるためなのか横向きにバーがついている。

プーさんたちはそのバーに腕をひっかけるようにしてきちんと収まっているので、まるで遊園地の乗り物に乗っているように見える。

思わず暖かい気持ちになって収集車を眺めていると、右に曲がっていく。

右側のくぼみにも、ちゃ~んとプーさんとティガーがニコニコと乗っていた。

ネバーランド   恩田陸 集英社 小説 

   ★★★☆☆

それぞれの事情で正月も帰省できない高校生が寮で過ごす冬休み。そこで彼らが向かい合った現実とは・・・。

出てくる少年達はみんな透明感があって生き生きと魅力的。深刻な事情があっても、ぐれたりすねたりしないで前向きに生きている。登場人物が、それぞれに抱えていた事情を告白していくうちに友情を深めていく様子がすがすがしい。

きちんとしたストーリーの小説を読んでいるのだけれど、頭の中にイラストが浮かんでくる。作者の文章力がなせる業のかもしれないけれど、なんとなくよく出来た漫画を読んだような読後感。だけど、けっして嫌いではない独特の空気感。だからこの人の小説は今人気なのかなぁ。

ネバーランド Book ネバーランド

著者:恩田 陸
販売元:集英社
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2006年9月20日 (水)

音道貴子シリーズ

外にある数字を見るとかたっぱしから語呂合わせにしてしまう。

受験の時に「泣くよ(794)ウグイス平安京」などとやっていたせいだろうか。

車のナンバープレートは持ち主が希望の番号を持てると聞いて、語呂あわせを作ったうえ、車の持ち主について勝手な想像をめぐらす。そうして家族に大えばりで自説を発表する。

「1955」行くゴーゴー・・・きっとスピード狂ねだとか、「8181」ヤイヤイ・・・祭り好きよね、と言う風に。

幼稚な推理遊びなのだが、やめられない。

だからうちの車は、語呂合わせを作られても大丈夫なように、陸運局から与えられた番号にしている。

花散る頃の殺人    乃南アサ 新潮 推理小説

未練          乃南アサ 新潮 推理小説 

   ★★★★☆

直木賞「凍える牙」の音道貴子シリーズ短編集。

警視庁の機動捜査隊員の音道が男性社会の中で、事件を解決していくストーリー。

音道を取り囲む周囲の人間像がいい。弱かったり、かっこ悪かったり、やるせなかったり。

みんなそれぞれに抱えている人生があり、中には他人の事件解決のために自らの家庭は崩壊している者もいる。それでも彼らを事件解決へとひたすら歩かせるものはなんなのか。大きな事件のその後も、刑事としての、そして30代女性としての音道の生活があるとわかってうれしい。この短編もいいけど、シリーズの長編「鎖」はいっきに読んだ。最近出た長編の続編が楽しみ。

女刑事音道貴子 花散る頃の殺人 Book 女刑事音道貴子 花散る頃の殺人

著者:乃南 アサ
販売元:新潮社
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未練―女刑事音道貴子 Book 未練―女刑事音道貴子

著者:乃南 アサ
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2006年9月19日 (火)

遅咲きのひまわり

ミニひまわりがようやくつぼみをつけた。

名前の通り、ひまわりといっても高さ20センチほどのこぶりな花だ。

今年の夏は冷夏で長雨だったので、なんど種をまいても途中で芽が腐ってしまう。

なんとなくせつなくて蒔きなおし、それでもだめでまた蒔き、最後にはどうしても咲かせたい、とむきになって蒔きなおした。

例年なら花の時期はとうに終わった9月になって、けなげにも茎のてっぺんにひとつ、ちゃんとしたつぼみをつけた。

ささやかでいいから花を咲かせてね、私はちゃぁんと見てるから。

夫婦公論      藤田宜永・小池真理子 幻冬舎文庫 エッセイ

★★★★☆

少々古いエッセイ。

エッセイを読んでがっかりする人と俄然好きになる人がいるが、だんぜん後者。

「恋」を読んで小池氏にはなんとなくインテリ女性特有のスノッブさと、ある種の偏見をいだいていたが、なんとかわいらしい女性なのか。夫婦で同じテーマについて書いているのだが、ほのぼのとした愛情が伝わってきて、なんだか幸せな気分になった。

ぜひ彼らの子育てエッセイを読みたかったが、子どもは生まない主義だったそうで残念。

夫婦公論 Book 夫婦公論

著者:小池 真理子,藤田 宜永
販売元:集英社
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2006年9月15日 (金)

家族の物語

近所のこども達が来た。

こどもたちは夏休みの出来事を大声で話す。こどもはなぜかいつだって大声だ。

その会話に入れない5才のこが、私の目を見てそっとつぶやいた、秘密の告白をするように。

「あのねぇ・・・・、ぼくのパパとママはけっこんしてるんだよ!?」

「私もけっこんしてるよ。」そう答えると、

そのこはきゅっとまゆをひそめてこう言った。

「・・・・・夏のおわりだね。」

夏の終わりに家族の物語を。

星々の舟    村上由佳 文芸春秋 小説

  ★★★★★

家族の時の流れを、それぞれの立場から描いた物語。父の連れ子は長男と次男、長女と次女は母の連れ子という複雑な家族。愛していても深く傷つけあわねばならず、求めながらも離れずにいられない。作者は登場人物の長女くらいの年齢だが、戦争経験者の父や、団塊の世代の男の気持ちを良く描いていて何度も涙が出た。家族はたまらないけれども、荒れざるを得ない男の弱さや哀しみが良く書かれていた。最近読んだ作品の中で一番の秀作。他の家族の物語に比べて孫娘のエピソードがいかにも軽く感じるのは、平和な時代の話だからだろうか?

星々の舟

Book 星々の舟

著者:村山 由佳
販売元:文藝春秋
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2006年9月14日 (木)

雨の日は江國香織さん

強い雨が降っている日は、会社に行かなくていいことを本当に嬉しく思う。いつまでも乾かない靴やストッキング、冷えて冷たくなった足先なんかのまま、オフィスで動き回るのは嫌だった。

結婚して、自分の性質で本当に結婚向きだったと思うことは、「一人が大丈夫」ということだ。

私は一人で過ごすことが好きだし、一人で行動することも出来る。勇敢にもラーメン屋にだって一人で行かれる。もちろんおっとは優しくて私は幸せだけれど、結婚生活が円満なのは孤独に強いからだ、とほんとに思う。

今日は好きな作家の江國香織さん

スイートリトルライズ 江國香織 幻冬舎 小説

  ★★★★☆

聡はやさしいが女としての瑠璃子に関心がなく、自分の興味が最優先の生活。瑠璃子は夫を愛しているのに、求めてくれる他の男を好きになる。

愛に満たされているようで忘れられている。全てがあるようで孤独に満ちている。誰かといるようで一人でいる。

江國さんの小説は既婚女性なら共感できるところがあると思う。もちろん現実は小説のようではなく、実際には何も起こらない毎日が続くのだけれど・・・・。

スイートリトルライズ Book スイートリトルライズ

著者:江國 香織
販売元:幻冬舎
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2006年9月13日 (水)

9.11がテーマの小説2つ

当たり前の毎日に感謝です。

被害者のご冥福をお祈りいたします。そして残された方々の痛みが少しでも癒されますように。

残された人たちが再生していく物語を2つ。

  「  PAY DAY!!!」 山田詠美 新潮文庫 小説

  ★★★☆☆

両親の離婚で、高校生の双子の娘ロビンは母とニューヨークで暮らし、息子ハーモニーはサウス・キャロライナへ戻った父と住んでいる。ありふれた日常を送っていた彼らが9.11のテロによる母の死を通して成長していく。

幼い恋や友情や肉親の愛情で、母の死から少しずつ癒されていく。色々問題のある家族だけれど、出てくる人たちは常に愛に満たされている。愛に飢えている人や、心底悪人という人が一人もいないのが安心して読める点だった。さわやかな青春小説。

沢山文学賞を受賞している小説家に恐れ多いのですが、「ひとりごちる」と言う表現があまりにも多く感じるのは私だけでしょうか?

PAY DAY!!! Book PAY DAY!!!

著者:山田 詠美
販売元:新潮社
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  コイントス 幸田真音 講談社 小説

  ★★★☆☆

花形トレーダーだった篠山はバブルのあおりをうけ、妻子にも見切りをつけられガードマンとして暮らしていた。そんなある日、自分の華々しい過去を知る冴子と再会したが、冴子は仕事で出かけたニューヨークで9.11のテロの被害者となってしまう・・・。

主人公は現実を受け止め、やけにならず生きている実直な中年男なのだが、センチメンタルすぎるのか、読んでいてなかなか心が添っていかなかった。

大切な人を失うことにより彼が再生していくところはよかった。

男性が読むともっと共感できると思う。

コイン・トス Book コイン・トス

著者:幸田 真音
販売元:講談社
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2006年9月12日 (火)

第1回は大好きな川上弘美さん

毎日まいにちホンを読んでその感想をおっとに話していたら、ある日おっとが疲れた顔をして言った。

「・・あのさぁ、ブログを作って感想を書いたらいいんじゃないの?」
・・・・な~んていい考えなんだろう!!

今日は第1回を記念して大好きな川上弘美さん。

卵一個ぶんのお祝い。  川上弘美 平凡社 エッセイ 

★★★★☆

彼女得意のうそ日記。ありそでなさそなクスッというエピソードたち。イラストもいい。
彼女のふわぁ~んとした文体と日常に癒されます。占い師に見てもらったという友人の話と、仁丹中毒のタクシー運転手の話がお気に入り。
ときどき出てくる子どもとのやりとりも心があったまる。ご主人のことは全く書かないようだが、どんな人がこの妻子の夫なのか興味津々。ぜひご主人のことも書いてもらいたいです。

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。 Book 東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

著者:門馬 則雄,川上 弘美
販売元:平凡社
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